肺線維症治療のためのヒト臍帯MSC由来細胞外小胞吸入投与に関する臨床研究について
さい帯(へその緒)由来間葉系細胞が分泌するエクソソーム(hUCMSCs-EVs)の肺線維症患者に対する吸入投与における安全性と有望性について、フェーズⅠ臨床試験の結果が報告されました。臍帯には再生医療で注目されている間葉系細胞が豊富に含まれています。また、間葉系細胞自体の働きはもとより、細胞が分泌するサイトカインや細胞外小胞(エクソソーム)を介した作用も知られており、医療応用が期待されています。エクソソームの使用方法は、点滴や局所投与が一般的ですが、霧状にして吸入することで直接的に肺へ届け、局所濃度を高めることができます。この投与経路は、作用部位を肺に限定できる可能性があり、副作用リスクの低減につながると考えられています。
Clinical investigation on nebulized human umbilical cord MSC-derived extracellular vesicles for pulmonary fibrosis treatment
Signal Transduct Target Ther. 2025 Jun 4;10;179.
試験デザイン

安全性評価
安全性評価のために血液検査が行われました。
生理食塩水を投与したグループ(対照群)とhUCMSCs-EVsを投与したグループ(実験群)のいずれも、血液評価指標や肝機能、腎機能、炎症に関する項目を含め、いずれの項目においても治療前後で有意な差は見られませんでした。
また、治療後は1年間にわたって経過観察が行われましたが、その期間を通じて、治療に関連すると考えられる悪影響は報告されませんでした。
これらの結果は、hUCMSCs-EVsの吸入投与による悪影響は認められず、治療の安全性を示唆しています。

有効性評価
肺線維症患者における治療の有効性を示すために、肺機能指標(強制肺活量:FVC、最大随意換気量:MVV)を用いて評価しました。その結果、対照群と比較して、実験群において肺機能の改善傾向が認められました。
さらに、肺機能の回復を評価するために広く用いられている2つの問診票を使用しました。セント・ジョージ呼吸問診票(SGRQ)のスコア(低下すればQOLの改善を反映)では、対照群に比べ実験群が有意に低下し、hUCMSCs-EVsによって肺に関する症状の改善が示唆されました。一方で、レスター咳嗽問診票(LCQ)のスコア(上昇すればQOL改善を反映)では、有意な差は認められませんでしたが、実験群で増加傾向が認められました。
治療全体の効果を評価するために、治療後に変化が認められた9つの指標[6分間歩行距離(6MWD)・1秒間の努力呼気量(FEV1)・FVC・MVV・肺拡散能(DLCO)・SGRQ・LCQ・ALT・息切れスケール(mMRC)]について、まとめて解析しました。
各指標について治療前後の変化を比較し、改善が認められた患者(赤)と改善が認められなかった患者(青)に分類しました。
そのうえで、改善した患者の方が多かった場合を1、改善した患者と改善しなかった患者の数が同じ場合を0.5、改善しなかった患者の方が多かった場合を0と定義して改善効果を算出しました。
その結果、この統合的な評価において、実験群でより多くの改善が認められたと報告されています。
治療後前の0日目、治療後の28日目、84日目に実施したHRCT画像を解析し、その変化を比較しました。その結果、大部分の患者で改善も悪化も認められませんでした。
しかし、2名の患者において28日目に明らかな改善が確認され、84日目には追加の改善が観察されました(赤矢印)。
患者9では0日目で見られた左肺のすりガラス状の影が、28日目には部分的に改善がみられ、84日目にはほぼ消失するまでに改善しました。
患者15は0日目で右肺に広く不均一な影を示し、さらにすりガラス状や線状の影を伴っていましたが、28日目には、不均一な影がなくなって、すりガラス状や線状の影を わずかに残すのみとなり、84日目にはさらに改善が見られました。一方で、対照群の 患者18では、この期間に線維化の進行が悪化していました。
この研究が再生医療にもたらす意義
今回の臨床試験では、さい帯由来間葉系幹細胞から得られたエクソソームを吸入投与した際、血液検査などの安全性評価において重大な問題は確認されませんでした。さらに有効性の面では、いくつか肺機能の指標で改善が示され、一部の患者では肺の繊維化が改善する傾向も観察されました。これらの結果は、さい帯由来間葉系幹細胞エクソソームが肺繊維症の新しい治療選択肢となる可能性を示しています。