日本の小児脳性麻痺患者に対するきょうだい間臍帯血投与の安全性および有効性

高知大学より脳性麻痺児に対するきょうだい間臍帯血投与の安全性と有効性について、フェーズⅠ臨床研究の結果が報告されました。本研究には、当社で保管された臍帯血が用いられました。
脳性麻痺は胎内あるいは周産期に生じた脳損傷に起因する運動障害です。近年では自家臍帯血の投与による運動
機能や知的発達の改善の可能性が注目されており、国内では高知大学が先駆的に研究を進めています。
この度の報告により、自家臍帯血に続き、きょうだい臍帯血の安全性と有効性を示す知見が示され、臍帯血による再生医療の可能性がさらに広がったと言えます。
臨床研究の概要
・臨床研究の名称
小児脳性麻痺など脳障害に対する同胞間臍帯血有核細胞輸血-細胞バンクで保管されている同胞の臍帯血有核細胞を用いた輸血の安全性研究-
*臨床研究計画は、臨床研究等提出・公開システム(jRCT)でご確認頂けます。
(臨床研究実施計画番号: jRCTa060200018 https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCTa060200018)
・研究参加者
以下の基準を満たした きょうだいの臍帯血が保管されている者の中から5名が選ばれた。
1. 年齢 1 ~ 7歳
2. 脳性麻痺、もしくは中等度以上の低酸素性虚血性脳症と診断を受けた患者
3. きょうだいの臍帯血と患者のHLA(A,B,DRB1)が6座中4座以上一致していること
除外条件
➢ 遺伝性疾患、難治性てんかん、進行性の神経疾患、活動性感染症いずれかの既往歴がある
➢ 腎臓、肝臓、呼吸器いずれかの機能低下がある
➢ 細胞治療を受けたことがある
選ばれた研究参加者はGMFCSレベルⅡ~Ⅳの脳性麻痺児であり、その病因は核黄疸(症例1)、脳室周囲白質
軟化症(症例2,3)、右中大脳動脈梗塞(症例4)、低酸素性虚血性脳症(症例5)であった。
※GMFCSレベル:運動機能尺度で脳性麻痺重症度を測る基準。五段階のうちレベルⅢ以上で歩行補助具が必要。
論文表1. 登録症例の臨床プロフィール PVL :脳室周囲白質軟化症、HIE :低酸素性虚血性脳症
安全性評価
短期的安全性評価:バイタルサイン測定(投与中15分おき)
長期的安全性評価:血液検査(血算、肝機能・腎機能マーカー、ミネラル濃度)
いずれの安全性評価においても投与に関連する異常は認められなかった。
症例2では投与5日後に一過性の蕁麻疹がみられたが、医療的介入無しに改善した。また、その他症例においても観察期間中に感染症や炎症性疾患が発生したが、いずれも臍帯血投与との関連は認められなかった。
有効性評価
【上図】論文図3.症例ごとの投与前後のGMFM-66スコア
運動機能評価:GMFM-66スコア(姿勢保持や歩行、ジャンプの様な全身運動、粗大運動能力の評価指標)
投与前からの平均変化量が算出され、投与6か月後で+5.45±4.43点、1年後で+7.46± 4.19点、2年後で+9.42±5.26点となった。
観察期間中、全症例でGMFM-66スコアの改善が認められた。
【上図】論文図4. GMFM-66スコアの予測値と実測値の差(A:症例ごと, B:観察期間ごと)
投与効果の検討:重症度別のGMFM-66予測値と投与後の実測値の差異
投与6か月後で+4.89±4.01点、1年後で6.49±3.58点、2年後で7.93±4.26点となった。
症例ごと、観察期間ごとのいずれも、時間依存的な改善傾向が認められ、投与後2年で最大値が得られた。
【上表】論文表4. 新版K式発達検査、論文表5. WISC-Ⅳ
発達機能評価:新版K式発達検査(姿勢・運動、認知・適応、言語・社会性の各領域についての発達状態評価検査) および WISC-Ⅳ (言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度の各指標の知的能力を測る児童用知能検査)
新版K式発達検査では、症例5において全体スコアおよび言語・社会性のスコアのおいて、WISC-Ⅳでは、症例3において全体スコアおよび言語理解、知覚推理のスコアにおいて改善を示した。
症例紹介
症例 1
(不随意運動型脳性麻痺・四肢麻痺) |
投与6か月後に 手すりを使わずに階段を昇降ができ、1年後には介助なしでナイフの使用ができるようになった。 |
症例 2
(痙直型四肢麻痺) |
投与6か月後に 自力であぐらをかいて座ることや寝返りをうつことができるようになった。 |
症例 3
(痙直型対麻痺) |
投与6か月後に 片足立ちや右手で物をつかむことができ、1年後には一人で歩行し、屋外を走ることができるようになった。 |
症例 4
(左片麻痺) |
投与6か月後に 階段昇降ができ、1年後には自力で走ることができるようになった。 |
症例 5
(不随意運動型脳性麻痺・四肢麻痺) |
投与6か月後に 数メートルの歩行ができ、1年後には一人で立つことができるようになった。 |
本研究で、きょうだい間臍帯血投与の安全性が確認され、さらに運動機能や発達において臨床的な改善につながる可能性が示されました。臍帯血投与の効果を確かめるためには、さらに多く患者を対象とし、最適な投与量や投与時期、適応患者の条件などの検討が必要とされています。
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