「今すぐ入院してください」
普通の定期健診のつもりで行った産婦人科で、友人は突然医師からそう告げられました。
いや、明日も普通に仕事あるし・・・そんなに急に休めないよ・・・
そんな思いが頭をよぎりました。
しかし仕事よりも守るべき命があります。
職場には事情を説明し、急に入院することになった彼女。
その原因は、切迫早産でした。
その時の彼女は、32週。
それから37週の正期産に入るまで、約1ヶ月間を病院で過ごすこととなりました。
切迫早産という言葉、ご存知でしょうか?
早産とは、文字通り早く産まれてしまうこと。
それも予定日よりだいぶ早い22週〜37週未満で産まれてしまう場合を指します。
そして「切迫早産」とは、その早産が切迫した状態を意味します。
すなわち、赤ちゃんにとって危険性が高い状態、ということです。
<早産になったらどうなる?>
早産は妊婦さん全体の5%に起こると言われています。
早産の場合、低出生体重児や未熟児とも言われますが、本来はまだお母さんのおなかの中にいるべき状態ですから、体の発達が充分とは言えない状態です。
この場合、新生児集中治療室(N I C U)で、特別なサポートを行う必要があります。
特に34週未満では自力でうまく呼吸することが出来ず、酸素投与や人工呼吸器が必要になる場合もあるのです。
そしてそれはおなかの中にいた時間が短いほど重症化しやすいことがわかっています。
赤ちゃんがお母さんのおなかの中から早く出てしまうことは、生存率やその後の成長リスクが高まることを意味するのです。
そして、へその緒で繋がっていれば自然と与えられていた栄養も、なかなか簡単に与える事ができなくなります。
お母さんは産後、すぐに赤ちゃんを抱っこすることができないこともありますし、無事に外の世界でも成長してくれることを祈るしかありません。
<どうして早産になるの?切迫早産の原因とその症状>
早産の原因にはいくつかありますが、その多くが感染症や体質によるものです。
なんらかの理由で外部から膣内に細菌が入り、膣内の常在菌のバランスが崩れて子宮頸部に炎症を起こすことがあります。これによって子宮収縮が促され、子宮頸管が短くなってしまうのです。
また、頸管無力症などで子宮口が開きやすい状態にあると、早産の危険が高まります。これは予防が難しいケースと言えます。
そして、これまでの妊娠で早産になったことがある方や、子宮頸管の手術をした方も早産のリスクがあるとされています。
切迫早産の症状の多くは、張り、痛み、出血です。
出血には薄いピンク色のものから鮮血まで色や量も様々です。
また強い張りを感じて受診し、切迫早産と診断されるケースが多くあります。
しかし稀に、無症状であるのに子宮口が開きやすくなる子宮頸管無力症という病気があります。この場合、子宮口を縛る処置が必要になります。
また他にも、高血圧や前置胎盤などの理由で、早産を自ら選ばなければいけなくなるケースもあります。
どんなに予防していても避けられない場合もあるのです。
<その日は突然やってくる!切迫早産になったらどうなる?>
冒頭で入院を余儀なくされた彼女。
つわりが終わってようやく楽しめるようになったマタニティライフ、
産休後に迷惑をかけないように整理しておきたかった仕事、
いろいろな計画が突然崩れてしまいました。
しかし、入院まで切迫早産を疑うような予兆もなく、入院当初も自分が切迫早産だという実感が持てなかったそうです。実は、彼女はこの時が初めての妊娠で、「おなかの張り」がどういったものなのか全然わかっていませんでした。責任感の強い彼女は、妊娠中も周りに迷惑をかけないように、むしろいつも以上に一生懸命仕事に臨んでいました。
しかし、仕事をしていたことは直接切迫早産の原因ではありません。
仕事をすることで見落としたかもしれない体調変化があったのです。
彼女が入院時に指摘されたのは、子宮頸管の短さでした。
そして、自分のおなかがカチカチに硬い状態であることを指摘されました。
本来妊婦さんのおなかは柔らかいものです。カチカチに硬いということは、切迫早産の症状である「張り」があったということなのです。
しかし初めての妊娠でそれが張りであることに気付かなかったというわけです。
いつから張りが出ていたのかはわかりません。しかし、仕事を一生懸命こなしていると、自分のことが後回しになっていたかもしれませんね。
そして、入院してみて初めて知る現実がありました。
病室には自分以外にも3名の妊婦さんがおり、そのうち2人は自分と同じ切迫早産。
もう1人は切迫流産でした。
切迫流産とは、妊娠22週目までで流産の危険があるケースです。
そして、自分以外の3人はずっと点滴をしており、ほとんど動けないような状態だったそうです。彼女も投薬や安静が必要でしたが、比較的普通に動くことができていたそうで、自分は軽度であることをなんとなく理解したとか。
<切迫早産を予防するために>
妊娠後期になれば自然と増えるおなかの張りですが、体調が良いからこそ無理もしやすい妊娠中期こそ、注意が必要です。
その目安として、張りが出ていないか、日頃から気を付けておくことです。
大丈夫だと思っていつも通りにしていることが、実は体には負担になっていることがあります。張りはそのバロメーターの1つです。
また無理をしない生活と合わせて、ご自身の免疫力U Pを意識してみることもお勧めです。必要な栄養素を取り入れた食事や適度な運動、ストレス発散など、免疫をあげられるようなことは、積極的な予防になります。
例えば、切迫早産の原因として多い感染症ですが、本来、膣の中には常在菌がいて、普段は自浄作用があります。しかし、外部から細菌が入った際、疲れやストレス等で免疫力が低下していたらどうでしょう。そもそも妊娠中はやや免疫が下がった状態とも言われています。
切迫早産の予防は無理をしない健康な生活を送ること。ストレスを溜めず免疫力U P
に努めることです。
<最後に>
無事に正期産まで持ちこたえ、元気な男の子を出産した彼女ですが、その後2人の出産を経験しています。
切迫早産だった人は、次も切迫早産になりやすいと言われています。しかし彼女はその後、切迫早産になりませんでした。
彼女が2人目以降やったことは、毎日おなかの柔らかさを確認することでした。張りが出ていないか確認しながら、無理のない妊娠生活を送るようにしたことが、切迫早産の予防に繋がったのかもしれません。
もしかしたら、予防をしていても防げないことは、あるかもしれません。
そして、たとえ早産で産まれてきても、元気に成長している子はたくさんいます。
私は大丈夫、と楽観視するのはよくないですが、できる予防をして、あとは妊娠生活を楽しみましょう。
明るい気持ちで過ごすことは免疫U Pに繋がり、おなかの赤ちゃんにもきっと良い影響がありますよ。
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー