2021年12月1日
赤ちゃん・子育て

新生児の食事 母乳の特長やミルクの成分について

坂田陽子

記事監修者:坂田陽子

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

新生児にとって母乳はフルコースの食事

新生児の食事は母乳やミルクのような乳汁です。新生児は乳汁以外の食事を摂ることができません。
今回は新生児の食事である母乳とミルクのお話、母乳の特長やミルクの成分についてもご紹介いたします。
母乳のもとはお母さんの血液です。お母さんの体内を流れる赤い血液が乳白色の母乳となり、赤ちゃんに届けられるのです。乳房には乳腺があり、母乳はその中にある乳腺葉で作られます。乳腺葉は毛細血管で取り囲まれ、ここで血液から必要な成分が細胞に取り込まれ合成されて母乳ができます。
母乳はたんぱく質や脂肪、ビタミンなど赤ちゃんの成長に必要な成分の全てが最適なバランスで含まれています。また、母乳の成分は赤ちゃんの成長や状況に応じて変化します。例えば低出生体重児のお母さんの母乳には小さな赤ちゃんに特に必要な成分が多く含まれていたり、赤ちゃんの離乳食が始まるころになると母乳中の脂肪分やたんぱく質が微妙に減ってきたりします。母乳はそのときどきの赤ちゃんにとって完全栄養食品になり得ます。
さらに、1回の授乳中にもその成分は変化します。飲み始めは低脂肪であっさり、授乳が終わるころには脂肪量が増えて濃厚な味になります。実は母乳を飲んでいる赤ちゃんは前菜、メインディッシュ、デザートと毎回フルコースの食事を楽しんでいるようなものなのです。

初乳は新生児の特別な食事

出産後2日頃までに出る母乳を初乳といいます。通常の母乳に比べて粘り気があり、黄色っぽい色をしています。初乳にはほぼ無菌状態の子宮の中から出てきた赤ちゃんを守るために免疫物質がたくさん含まれています。

分泌される量は少ないですが、IgAという分泌型免疫グロブリンが多く含まれていて、初乳を飲ませることで赤ちゃんに免疫を受け渡すことができます。IgAは赤ちゃんの消化器、中耳、気管支などの粘膜の表面を覆い、細菌、ウイルス、アレルギーの原因物質の血中への侵入を防ぐことで、消化器からの感染、中耳炎、気管支炎を起こりにくくする効果があります。初乳は新生児期の赤ちゃんにとって特別な食事といえます。ぜひ飲ませるようにしましょう。

ミルクだって新生児の大切な食事

赤ちゃんの発育はミルクでも母乳でも特に変わりありません。赤ちゃんの身体の具合やお母さんの事情などで母乳をあげられない場合、ミルクを与えることに後ろめたさを感じる必要はありません。母乳が不足した時には安心してミルクを飲ませましょう。状況に合わせてミルクを使用するなど、柔軟に授乳のスケジュールを組んでいきましょう。
ミルクには免疫物質は含まれていませんが、赤ちゃんはお母さんのおなかの中にいる時に胎盤を通して免疫を受け取っています。ミルクで育てたから免疫がなく病気になりやすいということはありません。現在市販されている乳児用ミルクの成分は牛乳を原料にして加工されたものですが、長年の研究で改良されています。

主要成分の組成には基準がありますが、より良いミルクを作るために各メーカー独自の開発、研究が重ねられているため、製品ごとに少しずつ特長が異なります。
また、先天的に栄養素の代謝異常がある乳児のための治療用ミルクやアレルギー用ミルクもあります。最近では作る手間がかからず、すぐに与えられる液体ミルクが販売されるようになりました。液体ミルクは水が不要で常温で長期保存ができるため、災害時にも役立ちます。

乳児用ミルクの主な成分

・たんぱく質

たんぱく質は筋肉や血液をつくり、その機能を調整する働きをします。牛乳も母乳もたんぱく質はカゼイン、ラクトアルブミンから成っていますが、配合比率が異なります。乳幼児用ミルクではたんぱく質の配合比率を母乳に近づけ、胃の中で消化されやすいようにしています。

・炭水化物

牛乳は母乳に比べて乳糖が少ないため、乳糖が添加されています。また、母乳オリゴ糖やシアル酸も配合されています。乳糖は脳の発達を助け、母乳オリゴ糖はおなかの調子を整え、シアル酸は病原菌の感染から守ってくれます。

・脂質

脂質はエネルギー源であり、必須脂肪酸の供給源でもあります。牛乳と母乳では脂肪の量はほとんど変わりませんが、含まれる脂肪酸の組成が異なります。牛乳には不飽和脂肪酸が少なく、腸壁を刺激して下痢を引き起こすとされる揮発性脂肪酸が多いため、乳幼児ミルクの脂肪は数種類の植物油を組み合わせて配合し、リノール酸やα-リノレン酸を強化しています。母乳にはドコサヘキサエン酸(DHA)なども含まれています。

・ビタミン

牛乳中のビタミンは母乳に比べてビタミンAとビタミンCが少なくなっています。そこで、乳児の所要量を満たすように強化されています。また、母乳に不足しがちなビタミンKも強化され、各ビタミンのバランスが調整されています。

・ミネラル

ミネラルは骨や歯を作る重要な成分で、牛乳には母乳の約3.5倍含まれています。特にリンとカルシウムが多く、鉄は少なくなっています。そのまま与えると腎臓に負担がかかります。また、新生児や乳児の腎臓は尿の濃縮力が弱いので過剰のミネラルがあるとこれらを排泄するのに水分が多く必要となり、水分不足を招くことになります。これらを防ぐため、ミネラルを減量してカルシウム、リン、カリウム、ナトリウムのバランスが調整されています。

・その他

初乳に多く含まれる感染防御物質であるラクトフェリンやビフィズス菌を増やす働きがあるラクツロースなども配合されています。

まとめ

新生児期の赤ちゃんの食事である母乳やミルクについて、おわかりいただけたでしょうか。母乳は完全栄養食品であり、免疫物質も含まれるため、新生児にとって最適な食事となっています。一方、ミルクも母乳に近い成分になるよう調整されており、様々な事情で母乳育児が難しい状況にある赤ちゃんにとって重要な食事です。

大切なことは赤ちゃんもお母さんも無理なく気持ちよく笑顔で過ごせることです。新生児期は短く赤ちゃんはあっという間に成長していきます。どうぞ楽しい食事の時間を過ごしてくださいね。

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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