坂田陽子

記事監修者:坂田陽子

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

ビッグベイビーにくっついていたもの

こんな大きい子が私のおなかにいたのか?と不思議に思ったり、「バースプランで胎盤を見てみたい」とお願いしたら、主人と私にレバーのような塊の胎盤を見せてくれました。苦しかったけれど、楽しかったお産を経験させてもらいました。

そんな私ですが、出血が多くて産後そのまま貧血になり寝たきりに。授乳に行けたのが3日後だったのですが、赤ちゃんの着替えを初めてしたとき目にしたのは、へその緒に血がにじんでいる息子でした。

そういえば「おぎゃーと泣いた直後の写真です」と渡された息子のおへそ回りには少し血がついていて、ベビーベッドのシーツにも血がペタペタとついていたので、私の血が息子についていたものか、へその緒から出血していたものかわかりませんが、いずれにしろ、よく聞く「母子ともに健康」でもあり「母子ともに血だらけ」だったのだと思いました。

助産師さんにへその緒がぽろりと取れるまで綿棒で消毒をする処置の仕方を教わり「こういうもの」と捉えていたので、出血は止まっていましたが「沁みないかな」と思いつつ、自宅に戻ってもせっせとへその緒の処置を続けていました。確か1週間ほどでぽろりと取れたので桐箱にしまいました。

 

へその緒も大事だけれど

出産前に参加した母親学級では、お産の流れの説明、病院の姿勢、選べる分娩方法、病室の説明、バースプラン、「へその緒を入れるこのような桐箱をお渡しします」とかわいらしい箱を見せてもらい、栄養士さんの話があり、最後にさい帯血の保管の説明がありました。

胎盤とへその緒を流れている栄養を赤ちゃんに運ぶ血液の中には、幹細胞とやらが豊富に含まれていて「さい帯血」と言うらしい。赤ちゃんが出てきたら、すぐに採取してもらわないと、二度と確保できないへその緒の中に流れている「さい帯血」。

使い道は将来の再生医療に対する万が一の保険のようなもの、今後国内でも臨床研究が進んでいくと思われる、といった4、5分の説明でした。

私は妊活に入ってすぐに子宮にポリープが見つかったり、1回目の妊娠が流産で終わってしまったこともあり、それまで他人事と思っていた「万が一」って自分にもあり得ると思い「へその緒も保管するけれど、さい帯血!保管できるものは全て保管しておくわ!」と、出産費用と合わせて必要な費用にさい帯血保管料も加えました。

 

まだまだ知られていないさい帯血保管

2回目の妊娠で長男が産まれたわけですが、分娩内容は無痛分娩プラス吸引になり、出てきた赤ちゃんは見た目真っ黒でした。「もしや全身チアノーゼ?」と心配になりました。お尻をパンパンたたく音は聞こえますが、数秒で泣くものと思っていたのが泣かないし、私は出血多量でブルブル震えるし、1分2分か分かりませんが、とても長い時間に感じました。声は小さかったけれど泣いてくれてホッとしたのもつかの間、助産師さんがやってきて「はい、さい帯血取れましたよ。へその緒が太くて長くて針が刺しやすかったです。さい帯血もたっぷり取れましたよ、安心してくださいね」と声をかけてくださいました。

後日、さい帯血の保管会社からも連絡が来て「無事、分離作業が終了し保管できました」と言われた時は、主人の実家で上げ膳据え膳状態の幸せな産後生活に入っていましたが「これで益々安心」と家族全員で安堵したものでした。

息子は幼稚園に入るまでに、特に大きな病気もせず健康に育っていました。2年下の娘が同じ幼稚園に入った時のこと、同じクラスに障害を持つ男の子がいました。偶然にも帰る方向が同じで、住所を聞くと市も町もお隣だったことが分かり急接近。男の子は出産時のトラブルで脳障害を持ってしまったそうですが、思い切ってママに「さい帯血は保管されなかったの?」と聞いてみたところ「さい帯血って何?知らない」と言うので、私が経験したさい帯血保管までの話をしたのですが「全然知らなかった。病院での紹介はなかったし、知っていたら保管したのに。息子の治療にも使えたかもしれないのに」と残念がっていました。

 

赤ちゃん一人一人のさい帯血保管を

男の子のママは控えめですが、芯の強いタイプで、できなかったことよりできたこと、これからできそうなことに目を向けて育児を楽しんでいます。

それでも「知らなかったことで後悔するより、まずは知ってから選択できる方が良いね」と園での行事がある度に話してきました。「あなたが保管したさい帯血の話は、幼稚園ママで今妊婦さんの人がいっぱいいるから教えてあげてよ」と何度も言われました。

我が子の場合は、大したトラブルはなくこられましたが、出産時も出産後も我が子に何が起こるか誰にも予測できません。

使わないでいられることが健康な証拠ですが、万が一、使わなければ治らない病気になってしまったときに「あの時保管しておけば良かった」と後悔するよりは、保管している安心を感じていられる方が良いと思いました。

息子の意思

さい帯血を保管している息子が10歳を迎えるにあたり、保管の延長または廃棄の希望を問う書類が届きました。夫婦は当然延長のつもりでいましたが、誕生日前の9歳の息子にもさい帯血の説明をして「大人になっても保管したい?」と聞くと「絶対捨てないで!捨てたら二度と取れない血液なんでしょ。今僕は元気でいるけれど、大人になるまでも、なってからも、どんな病気や事故に遭うかわからないから、お願い保管して」と熱っぽく語っていました。当時は10年と20年が選べたので迷うことなく20年延長を選びました。

現在息子は13歳、娘は11歳になりました。おかげさまで、さい帯血は使わずに保管を続けています。

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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