詳細版「脳性麻痺に対する自家臍帯血投与の第Ⅰ相臨床研究が終了 高知大学が論文を発表」
脳性麻痺は胎内あるいは周産期に生じた脳損傷に起因する運動障害で、近年、自家臍帯血を投与することによる運動機能や知的発達の改善の可能性が報告されています。
本邦においては、高知大学が、脳性麻痺児に対する自家臍帯血輸血治療の臨床研究を行っており、その安全性や実現可能性および神経学的機能への治療効果を探った国内初の第Ⅰ相臨床研究が終了し、その結果が報告されました。
本研究には、弊社で保管されている臍帯血が用いられました。
・論文タイトル
Safety and feasibility of autologous cord blood infusion for improving motor function in young children with cerebral palsy in Japan: A single-center study.
Hiroaki Kikuchi, Shiho Saitoh, Terumasa Tsuno, Rina Hosoda, Nobuyasu Baba, Feifei Wang, Naomi Mitsuda, Masayuki Tsuda, Nagamasa Maeda, Yusuke Sagara, Mikiya Fujieda Brain & Development.
Published online: August 29, 2022, Article in press
・臨床研究の名称
小児脳性麻痺など脳障害に対する自家臍帯血単核球細胞輸血-細胞バンクで保管されている自家臍帯血単核球細胞を用いた輸血の安全性研究-
*臨床研究計画は、臨床研究等提出・公開システム(jRCT)でご確認頂けます。
(臨床研究実施計画番号: jRCTb060190039 https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCTb060190039 )
・研究参加者
本研究では以下の基準に則り、弊社に臍帯血を保管されている方の中から、6名の参加者が選ばれました。
- 年齢1.5~6歳
- 脳性麻痺と診断され、中等度以上の低酸素性虚血性脳症や画像上で脳室周囲白質軟化症が見られる患者
- 除外条件
➢ 遺伝性疾患、難治性てんかん、進行性の神経疾患、活動性感染症いずれかの既往歴がある
➢ 腎臓、肝臓、呼吸器いずれかの機能低下がある
➢ 細胞治療を受けたことがある
選ばれた研究参加者はGMFCSレベルⅠ~Ⅴの脳性麻痺児であり、その病因は脳室周囲白質軟化症が2例(症例1, 2)、胎内脳梗塞および脳出血が2例(症例3, 6)、低酸素性虚血性脳症が2例(症例4, 5)でした。
※GMFCSレベル:運動機能の尺度で、脳性麻痺児の重症度を測る基準。五段階のうちレベルⅢ以上で歩行補助具が必要。
・結果
1.安全性及び臨床応用の実行性が確認された。
評価方法
➢短期的な安全性の評価(投与中15分ごとと、投与後3週間の入院期間中に4回/日実施)バイタル(体温、血圧、呼吸数、心拍数、経皮的酸素飽和度など)および臨床症状の記録
➢長期的な安全性の評価(投与1週間前と、投与1週間後、1年後、2年後、3年後に1回ずつ実施)血液検査:血球数、血清電解質(Na、K、Cl、Ca、P、Mg)、肝機能(AST、ALT)、腎機能(クレアチニン、血中尿素窒素)尿検査:潜血、タンパク質、ブドウ糖
➢2例で一過性の有害事象を確認
➢バイタル・血液・尿検査結果→全例で投与後も正常値を維持
➢臍帯血投与に関連した重篤な有害事象や何らかの臨床症状は認められず
確認された有害事象
1.症例3:投与12ヶ月後に微量の血尿と上気道感染症がほぼ同時に発症。3日間で改善。再発なし。
2.症例4:投与9ヵ月後に3分以内の熱性けいれん1回と上気道感染症が同時に発症。2日間で改善。再発なし。
2.運動機能の改善の可能性が示された。
評価方法GMFM-66(姿勢の保持や歩行、ジャンプの様な全身を使う運動=粗大運動の評価指標)スコアの測定を、投与前と投与1週間後、1年後、2年後、3年後に1回ずつ実施。「投与前からの変化量」と「GMFCSレベルに基づく予測値との差」をそれぞれ評価。
➢GMFM-66スコアの投与前のベースラインから変化した量の平均→投与1年後+5.0±3.3、2年後+6.8±4.2、3年後+9.5 ±4.7
観察期間中は全例で改善傾向
➢実測値とGMFCSレベルに基づくGMFM-66スコア変化の予測値との差
中央値が投与1年後+6.6ポイント(+1.0~+16.6)
2年後+6.2ポイント(+0.9~+17.9)
3年後+5.5ポイント(+0.6~+18.8)
GMFCSレベルから予測される以上に改善
GMFCSレベルⅠ~Ⅲにおける臨床的に意義のある最小変化量(MCID)を上回る結果
※臨床的に意義のある最小変化量(MCID):治療効果があったと判断できるだけの最低限の変化量
3.発達機能の改善の可能性が示された。
評価方法
以下の検査を、投与前と投与1週間後、1年後、2年後、3年後に1回ずつ実施。
➢新版K式発達検査
「姿勢・運動」「認知・適応」「言語・社会」の3つの領域について、項目への回答や反応を通して発達状態を客観的に評価する検査。
➢WICS-Ⅳ
記憶や情報処理などの知的能力を測る児童用の知能検査。10種類の検査の合計点から算出される全体的な認知能力を表す全検査IQと、以下の4つの指標からなる。
•言語理解指標:言語を用いた理解力・推理力・思考力
•知覚推理指標:知覚情報を利用した思考力・運動能力
•ワーキングメモリー指標:一時的に記憶しながらの情報処理能力
•処理速度指標:手先の器用さ・視覚情報を処理する速度
・まとめ
本研究により、脳性麻痺児に対する臍帯血投与の安全性と臨床応用への実効性が確認されました。そのうえ、投与後3年間にわたり運動機能の改善が見られたほか、発達状態や知的能力の改善にも寄与する可能性が示されました。
こうした治療効果の有無をより確かにするためには、さらに多く患者を対象とした研究が必要とされます。現在、高知大学では、脳性麻痺に対する同胞(きょうだい)臍帯血投与の臨床研究を実施しています。
今後も、自家およびきょうだいの臍帯血投与の有効性評価に関するさらなる臨床研究が計画されています。
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