ヒト羊水幹細胞(hAFSC)が新生児敗血症による脳機能障害を改善することを報告した慶應義塾大学と弊社の共同研究論文が発表されました
・論文タイトル
Prophylactic Therapy with Human Amniotic Fluid Stem Cells Improves Long-Term Cognitive Impairment in Rat Neonatal Sepsis Survivors.
Yushi Abe , Daigo Ochiai , Yu Sato , Seiji Kanzaki , Satoru Ikenoue , Yoshifumi Kasuga , Mamoru Tanaka
Int. J. Mol. Sci. 2020; 21(24):9590
・緒言
新生児敗血症は死亡率が高く、生存しても重い神経学的な後遺症をきたす疾患ですが、今のところ抗生物質の投与と支持療法以外に効果的な治療法はありません。
慶應義塾大学産婦人科学教室の落合大吾先生率いる研究チームではこれまでに、ヒト羊水幹細胞(hAFSC)の予防的投与が、新生児敗血症モデルラットの生存率を上げることを報告しています。
今回の研究では、それらhAFSCにより生存したラットの神経学的な予後を調べました。
・方法
新生児敗血症モデルラットは、生後3日の個体に炎症を誘発する物質(LPS)をお腹の中に投与することで作成されました。治療群では、炎症物質を投与する3時間前に同じくお腹の中にhAFSCの投与を行いました。
・結果
<hAFSCは脳で起きた炎症を抑える>
脳での炎症の発生は、アストロサイトとミクログリアと呼ばれる2種類の細胞の活性化から評価できます。炎症物質のみを投与したグループで、投与から48時間後にそれぞれの細胞がいる領域を分析したところ、記憶を司る海馬(CA1、CA3、DG)で増えており、炎症の発生を示していました。
炎症物質に加えてhAFSCを投与したグループでは、炎症物質を投与していないグループと同じくらいまで炎症が抑制されていたことがわかりました。
投与から4週間後では、炎症物質のみのグループで海馬でのアストロサイトの活性化が残っていたのに対し、hAFSCも投与したグループにおいてはこちらも抑制されていました。
以上の結果から、hAFSCは早い段階で炎症を抑え、その後の影響も軽減させていることが示されました。
<hAFSCは空間記憶を改善する>
海馬は、自らの位置や周囲の空間に関する記憶の中心とされています。その能力を調べたところ、炎症物質のみを投与したグループで悪化したのに対し、hAFSCも投与したグループではそれが改善していました。
・結論
重度の新生児敗血症は神経学的な予後を悪化させます。今回の研究から、hAFSCは海馬における神経炎症を軽減して空間記憶を改善することがわかりました。
これは、hAFSCの投与が新生児敗血症による認知機能障害を改善することを示した最初の報告となります。
以前の結果も踏まえると、hAFSCを用いた新しい治療戦略は死亡率を下げて予後を好転させ、新生児敗血症に対して効果的である可能性が示されました。
本研究の発表にあたり、弊社では実験の支援などを行いました。弊社では今後とも、本研究のような赤ちゃんに由来する幹細胞を利用した研究を支援し、周産期医療の発展に貢献していきます。
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