出生前診断におけるさい帯血検査とは?ほかの方法とその特徴を解説

産婦人科医 土肥 聡 先生

記事監修者:産婦人科医 土肥 聡 先生

医学博士/日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医/日本周産期・新生児医学会認定専門医・指導医/日本超音波医学会認定超音波専門医・指導医

「出生前診断におけるさい帯血検査とは?」
「出生前診断で何がわかる?」
「ほかの検査方法にはどのようなものがあるか知りたい」

このような疑問をもっているのではないでしょうか。

出生前診断におけるさい帯血検査は、胎児の健康状態を確認する手段のひとつです。

また、さい帯血には将来の医療利用に備えて保管する価値があり、さまざまな病気や症状の治療にも活用されているのです。

この記事では、おもに以下の内容を解説していきます。

・出生前診断におけるさい帯血検査の実態
・ほかの出生前診断とその特徴
・さい帯血の活用事例

この記事を読むと、出生前診断の基礎知識を把握でき、胎児の万が一に備えられるようになりますよ。

出生前診断が目的のさい帯血検査はほとんど行われない

出生前診断のひとつとして、さい帯血検査があり、ほかの検査と同様に染色体異常や遺伝子疾患の診断が可能です。

しかし安全性の観点から、出生前検査の目的でさい帯血検査を実施することはほぼありません(※1)。

さい帯血は出産後に採取され、将来の医療利用のために保管されるのが一般的です。

出生前診断としては、ほかの方法が選択されることが多いのが現状なのです。

そのため以降の解説では、さい帯血検査以外の出生前診断方法について説明していきます。

(※1)出典:J-STAGE|昭和大学横浜市北部病院産(土肥 聡)「産科領域で行われる出生前診断の現状」特集・第 62 回日本小児神経学会学術集会 2021 年 53 巻 5 号 p. 375-379

さい帯血検査以外の出生前診断

出生前検査は大きく「確定的検査」「非確定的検査」の2種類に分かれ、さらに「確定検査」2種類、「非確定検査」3種に分かれます。

それぞれの特徴を下表で確認してみましょう。

種類 検査名 実施時期(※2,3) 特徴 対象疾患(※2,3) 正確さ 注意点(※2)
非確定的 超音波検査 11週~ 胎児の形態や発育状況を確認 形態異常全般 検査結果が100%保証されていない
NIPT 9,10週~ 母体血中の胎児DNAを分析 13,18,21トリソミー
母体血清マーカー検査 15~20週 母体血清中の4つのマーカーを分析 13,18,21トリソミー
確定的 羊水検査 15週~ 羊水中の胎児細胞を分析 ・染色体数的異常
・遺伝子異常
・子宮内感染など
確定 流産リスク約0.3%
絨毛検査 11~14週 絨毛(胎盤組織)を分析 ・染色体数的異常
・遺伝子異常など
確定 流産リスク約1.0%

非確定的検査は体への負担が少なく流産のリスクもありませんが、疾患の可能性を判定するスクリーニング検査であるため、確実な診断はできません。

一方で確定的検査では正確な診断が可能ですが、お腹に針を刺すなどの処置が必要で、母体への負担が大きく、流産などのリスクを伴います。

(※2)出典:兵庫医科大学「出生前診断についてキチンと知っていますか?」改定 2025年1月
(※3)出典:厚生労働省|厚生科学審議会科学技術部会 NIPT 等の出生前検査に関する専門委員会「NIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書 」令和3(2021)年5月

万が一に備えるさい帯血保管|3つの治療事例

さい帯血は、さまざまな病気や症状に対する治療手段として注目されています。

実際に、さい帯血が治療に使われた以下3つの事例を紹介します。

・脳性まひ
・発達障害
・低酸素性虚血性脳症

順番に見ていきましょう。

事例1:脳性まひ

脳性まひは、胎児期から出産直後に発生した脳の損傷によって運動が困難になり、筋肉がこわばるといった症状があらわれます。

高知大学の臨床研究のうち、2歳5か月の子どもを対象にさい帯血の投与を実施した一例をご紹介します。

子どもには「左手と左足のまひ」があり、歩行時に何度も転倒していました。

しかし、さい帯血投与の翌日から転倒の頻度が減少し、おもちゃを両手で掴めるように。

その後さらに症状は改善され、地域の小学校の普通級へ集団登校できるまでに回復しました。

出典:ステムセル研究所「さい帯血情報」2023年6月号Vol.126ステムセル研究所発行

事例2:発達障害

ある2歳の女児に、以下のような発達障害の症状が見られていました。

・手足の動きがぎこちなく、ものを持つことが困難
・歩行時に転倒を繰り返す
・言葉の発達の遅れ

しかし出産時に保管していた自身のさい帯血を投与したところ、

・2週間後から走る・登るなどの運動が可能に
・言葉を話せるように
・筋肉のこわばりがほぼ消失

現在4歳になった女児は学校に通い、ダンスができるまでに回復しました。

医師からは「同様の症状でここまでの改善を見たことがない」と評価されています。

出典:Parent’s Guide to Cord Blood「エイジアちゃんのさい帯血ストーリー」

事例3:低酸素性虚血性脳症

低酸素性虚血性脳症は、新生児期に脳への酸素供給や血流が不足することで生じる脳の障害です。

デューク大学が実施した臨床研究では、以下の症状がある7歳児にさい帯血治療を行いました。

・自力での寝返りや座ることが困難
・てんかん発作の発症

治療後の結果として、子どもに以下のような改善が見られました。

・てんかんによる部分痙攣が24時間程度消失
・治療開始から1か月で粗大運動が可能に

また歩行器の使用時にも変化が見られ、単に足を突っ張るだけだった状態から、筋肉の緊張と弛緩を使い分けられるように。

さらに言葉の理解度が向上するなど、認知機能面での進歩も確認されました。

出典:ステムセル研究所「さい帯血情報」2022年8月号Vol.123ステムセル研究所発行

さい帯血を赤ちゃん本人や家族のために使うなら「民間バンク」

赤ちゃん本人やその家族の将来の治療に備えてさい帯血を利用したい場合「民間バンクへの保管が必須」です。

一方、公的バンクに保管されたさい帯血は、おもに第三者の治療に用いられるため、自身や家族の治療には使用できません。

以下の表で、公的バンクと民間バンクのおもな違いを確認しておきましょう。

比較項目 公的バンク 民間バンク
利用目的 第三者の患者のために使用 契約者とその家族のみが使用可能
保管期間 最長10年(※4) 保管先による。

ステムセル研究所の場合:10年 or 20年で選択可能(※5)

費用 無料で提供可能 有料で、初期費用と年間保管料が必要

公的バンクと民間バンクの違いについて、くわしく知りたい人は、下記も参考にしてください。

さい帯血保管の民間バンクとは?公的バンクとの違いや特徴を解説

(※4)出典:政府広報オンライン「「臍帯血(さいたいけつ)」は、赤ちゃんからの贈り物。臍帯血移植とは?」

(※5)出典:ステムセル研究所「採取から保管まで」

ステムセルでさい帯血保管をした人の声

ここでは、実際にステムセル研究所でさい帯血を保管した人の声を見てみましょう。

以下は、保管した人の声を一部抜粋・編集したものです。

1人目の出産前に、病院でさい帯血のことを知りました。

「出産が近付くにつれ、生まれて来る子がこの先、何十年と生きていくうえで、

・病気になったとき保管しなかったことを後悔するという思い
・生まれてくる子どものために、何かしてあげられるという思い

で保存を決めました。

2人目のときは姉弟が保管しているため、万が一のときも適合するのではと悩みましたが、上の子と同じ思いで保存しています。

この先2人の子どもに何があるかわかりませんが、保存したさい帯血を使うことなく健康で元気に育ってくれればと思っています。」

さい帯血には、上記のようなメリットだけでなくデメリットもあるため、下記も参考にさい帯血の保管を検討しましょう。

出典:ステムセル研究所「実際のご利用者のお声」

出生前診断におけるさい帯血検査のQ&A

ここでは出生前診断におけるさい帯血検査について、よくある3つの質問をまとめました。

順番に見ていきましょう。

土肥 聡
豊洲レディースクリニック 院長
2004年北里大学医学部医学科卒業。同年4月から2年間、東大和病院にて初期臨床研修を修了。昭和大学病院、昭和大学横浜市北部病院、昭和大学江東豊洲病院で勤務した後、2023年に昭和大学医学部医学教育学講座客員教授に就任。2024年2月、亀田総合病院臨床遺伝科顧問に就任。同年1月、豊洲レディースクリニックを開業。
妊娠中の赤ちゃんに行う「さい帯血検査」で流産する可能性はある?
土肥先生
「さい帯血検査」(経皮的さい帯血採取、PUBS)は、お腹に細い針を刺して、赤ちゃんのへその緒(さい帯)から血液を採る検査です。

この検査は、赤ちゃんの貧血や感染症、遺伝子の異常などを詳しく調べるために行われます。

この検査には具体的に下記の合併症が報告されています(Sasahara et al., 2019):

• へその緒からの出血(16.6%)
• 赤ちゃんの一時的な心拍の乱れ(5.4%)
• 検査後48時間以内の赤ちゃんの死亡(4.9%)

ただし、死亡した赤ちゃんの多くはもともと重い病気を持っていたことが原因と考えられています。

最近では、赤ちゃんの貧血を調べる際に 「超音波検査」 で診断できる場合も増えており、なるべくお腹に針を刺さずに済む方法が選ばれることが多くなっています。

ただし、 貧血が重い場合などは、この検査と治療が必要になることもあります。

不安がある場合は、担当の先生と相談しながら リスクとメリットを比べて、自分にとって最善の選択をする ことが大切です。

出生前検査における、さい帯血検査にかかる費用はどのくらい?
土肥先生
日本では、出生前検査としての臍帯血検査(さい帯血採取による診断)は非常に稀であり、一般的には実施されていません。

そのため、明確な料金設定もなく、実施例を見つけるのが難しいのが現状です。

臍帯血を用いた出生前検査(経皮的さい帯血採取、PUBS)は、海外では胎児の染色体異常や感染症の診断手段として利用されることがありますが、日本では主に羊水検査や絨毛検査が優先されるため、臍帯血を用いるケースはほぼありません。

また、臍帯血検査は胎児へのリスク(流産の可能性など)が伴うため、国内の医療機関では慎重に適応が判断されます。

日本では出生前検査の選択肢としては無侵襲的出生前検査(NIPT)や羊水検査が一般的であり、臍帯血検査を選択することはほぼない状況です。

したがって、日本国内での費用に関するデータはなく、仮に行う場合でも、実施する医療機関ごとに異なる可能性が高いと言えます。

胎児に対する、さい帯血検査にメリットはある?
土肥先生
胎児貧血の診断と治療(胎児輸血)が可能であることが最大のメリットとして挙げられます。

さい帯血検査を通じて胎児の貧血の程度を正確に評価できます。

これにより、重度の貧血による胎児の低酸素状態や死亡リスクを軽減することが可能です。

まとめ

出生前診断において、さい帯血検査は安全性の観点からほとんど実施されていません。

行われているおもな出生前検査は、非確定的検査と確定的検査に分けられます。

種類 特徴
非確定的検査 ・体への負担が少なく、流産リスクなし

・疾患の可能性を判定するスクリーニング検査

確定的検査 ・正確な診断が可能

・母体への負担大きく、流産リスクあり

さい帯血は出産後に採取され、将来の医療利用のために保管されるのが一般的です。

さい帯血が治療に使用された事例としては、

・脳性まひ
・発達障害
・低酸素性虚血性脳症

などがあります。

さい帯血を自身や家族の治療に使用したい場合は、民間バンクでの保管が必要です。

さい帯血保管は、将来の健康リスクに備える選択肢のひとつですが、メリットとデメリットを十分に検討したうえで保管の判断をしましょう。

赤ちゃんの未来に備える「さい帯・さい帯血保管」を考えてみませんか?

赤ちゃんとお母さんをつなぐ、「へその緒(さい帯)」と、その中を流れる血液「さい帯血」には、体を作るためのもととなる貴重な「幹細胞」が多く含まれていて、赤ちゃんやご家族の将来に備えて長期的に凍結保管することができます。

幹細胞は新しい医療への活用が進められており、もしもの時に役立てられる可能性があります。

さい帯・さい帯血保管のポイント!

  1. 出産後わずか数分の間にしか採取できない貴重な赤ちゃんのものです。
  2. 採取の際、お母さんと赤ちゃんに痛みや危険はありません。
  3. どちらにも幹細胞がたくさん含まれています。
  4. 再生医療分野など、さまざまな活用が進んでいます。
  5. それぞれ異なる幹細胞が含まれているため、両方を保管しておくことで将来の利用の選択肢が広がります。

実際に保管・利用した方のお声

出産時にしか採取できない「さい帯血」を、脳性まひのお子さまに対して臨床研究で使用された方のお声をご紹介します。

高知大学の臨床研究で
さい帯血投与を受けたお子さま

さい帯血を保管して
本当に良かったと思っています

元気に産まれたと思っていましたが、生後半年頃から左手をほとんど使おうとしないことに気付き、1歳頃にやはり何かおかしいと思ってMRIを撮ってもらうことにしました。結果1歳5ヶ月で脳性まひとわかりました。
2歳の誕生日にステムセルからハガキが届き、出産時に保管したさい帯血がもしや役に立つのではと思い至りステムセルに問い合わせました。ちょうど臨床試験への参加者を募集していて、運よく2歳5ヶ月のときに参加することができました。
輸血前は左手と左足に麻痺があり、歩けてはいるものの、とても転びやすく、少し歩いては転びを繰り返していました。しかし輸血後、翌日には転ぶ回数が減り、おもちゃを両手で掴めるようになって驚きました。その後もリハビリも継続し、完治したわけではありませんがかなり麻痺が軽くなったように思います。
現在、地域の小学校の普通級に集団登校で通えています。
まさか我が子がさい帯血を使って治療をすることになるとは思っていませんでしたが、保険のつもりでさい帯血を保管しておいて本当に良かったと思います。

さい帯・さい帯血を利用した再生医療の研究が、今まさに国内外で進んでいます。

その他のお声は公式サイトからご覧いただけます。

医師からのメッセージ


総合母子保健センター
愛育病院 病院長
百枝幹雄 先生

応用範囲が広がる
「さい帯・さい帯血」による再生医療

近年、めざましく進歩している再生医療のなかで、さい帯やさい帯血の幹細胞を利用する技術の最大の特徴は、通常は破棄してしまうけれども実はとてもポテンシャルの高い出生時の幹細胞を活用するという点です。
これまで有効性が示されている白血病、脳性まひ、自閉症のほかにも様々な疾患に対して臨床研究が進んでいますし、民間のバンクではご家族への利用も可能になりつつありますので、今後はますます応用範囲が広がることが期待されます。
一方、忘れてはならないのは必要になるまで幹細胞を長期間安全に保管するには信頼できる設備と技術が必要だということで、それにはそれなりのコストがかかります。
コスト・ベネフィットのとらえ方は人それぞれですが、お子様とご家族の将来を見据えてベネフィットが大きいとお考えの方には、信頼できる施設へのさい帯やさい帯血の保管は十分価値のある選択肢だと思います。

さい帯・さい帯血についてより詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

保管するなら、ステムセル研究所の「HOPECELL(ホープセル)」

株式会社ステムセル研究所が提供する「さい帯・さい帯血ファミリーバンクHOPECELL(ホープセル)」は、日本国内で最も選ばれている保管サービスです。

ステムセル研究所は、25年以上の保管・運営実績がある日本初のさい帯血バンクで、国内最多となる累計80,000名以上のさい帯血を保管しています。

どうやって保管するの?
ステムセル
研究所
出産時に産科施設で採取されたさい帯・さい帯血は、ステムセル研究所の高レベルのクリーンな環境で専門スタッフが処理・検査を行います。国内最大級の細胞保管施設にて、約-190℃の液体窒素タンク内で長期間大切に保管されます。また、ステムセル研究所は厚生労働省(関東信越厚生局)より「特定細胞加工物製造許可」を取得しており、高品質と安全性を実現しています。
保管したさい帯血は何に使えるの?
ステムセル
研究所

国内では脳性まひに対する、赤ちゃんご自身やごきょうだいのさい帯血投与の研究が行われています。海外の臨床研究では、投与により運動機能および脳神経回路の改善が報告されています。また自閉症スペクトラム障害(ASD)に対して、さい帯血の投与によりコミュニケーション能力や社会への順応性が向上する可能性が期待されており、大阪公立大学にてお子さまご自身のさい帯血を投与する臨床研究が開始されます。

さい帯・さい帯血保管は高いと聞いたのですが…
ステムセル
研究所
さい帯またはさい帯血のどちらか一方を10年間保管する場合、月々2,980円(税込)で保管することができます。出産時にしか採取・保管することができない貴重な細胞なので、お子さまの将来に備えて保管される方が増えています。

無料パンフレットをお送りします!

さい帯・さい帯血保管についてより詳しく知っていただけるパンフレットをご自宅へお送りします。

赤ちゃんの将来に備える「さい帯・さい帯血保管」をぜひ妊娠中にご検討ください。

この記事の監修者

産婦人科医 土肥 聡 先生

経歴

豊洲レディースクリニック院長

2004年北里大学医学部医学科卒業。同年4月から2年間、東大和病院にて初期臨床研修を修了。
昭和大学病院、昭和大学横浜市北部病院、昭和大学江東豊洲病院で勤務した後、2023年に昭和大学医学部医学教育学講座客員教授に就任。
2024年2月、亀田総合病院臨床遺伝科顧問に就任。同年1月、豊洲レディースクリニックを開業。

資格

医学博士/日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医/日本周産期・新生児医学会認定専門医・指導医/日本超音波医学会認定超音波専門医・指導医