帝王切開は逆子や母体にリスクがあるといった理由で計画的にするもの、というイメージがあるのではないでしょうか。
じつは普通分娩を予定している人でも、急に帝王切開になることがあるのです。
「それは特別なケースで、私は違うはず」
そう思うのではないでしょうか。
しかし緊急帝王切開は、あなたに適応されるケースも充分にありえます。
今回は、
■緊急帝王切開が適応される理由
■緊急帝王切開が適応される確率
■帝王切開の体験談
などについて解説していきます。
この記事を読むと、緊急で帝王切開になった場合でも、落ち着いて対応できるようになりますよ。
【状況別】緊急帝王切開が適応される理由
一言でいうと、緊急帝王切開は母体と胎児を守り、安全な出産をするために適応されます。
状況別に、緊急帝王切開が適応される理由を詳しく見ていきましょう。
状況1:妊娠高血圧症候群
妊娠中に母体の血圧が高くなり、蛋白尿など、さまざまな合併症を伴うものが「妊娠高血圧症候群」です。
分娩中に母体の状態が悪化した場合や、胎児に酸素が行き届かないなどの原因で胎児機能不全となった場合に、緊急帝王切開となります。
状況2:分娩停止
陣痛がきたにも関わらず、陣痛が弱い、子宮口が開かないといった場合には、長時間お産が進みません。
陣痛を促す薬剤の投与を行っても効果がない場合や、経膣分娩が難しいと考えられる場合には、緊急帝王切開へ切り替えられます。
状況3:常位胎盤早期剝離
出産後に娩出される胎盤が、出産前に子宮内で剥がれてしまうことを「常位胎盤早期剝離」といいます。
常位胎盤早期剝離は、母体の腹部に激痛を伴うとともに、胎児へ酸素が届かなくなることで、母子ともに大変危険な状態となります。
そのため、全身麻酔下での緊急帝王切開となることが多いです。
状況4:胎児のトラブル
胎児側の要因として、「回旋異常」や「臍帯脱出」など分娩中に起こるトラブルによって緊急帝王切開となる場合もあります。
回旋異常とは、子宮内にいる胎児が何らかの理由によりうまく回旋ができない状態を指します。回旋異常は分娩開始前に予測することはできず、分娩が始まって、経過をみながら判断されることになります。
臍帯脱出とは、臍帯が胎児よりも先に子宮から出てしまった状態です。
臍帯脱出が起こると、分娩中、常に臍帯が圧迫される可能性があり、新生児仮死などの原因になります。
【年齢別】緊急帝王切開が適応される確率
厚生労働省の調査によると、2020年の分娩件数に占める帝王切開の割合は一般病院で27.4%、一般診療所で14.7%でした。
分娩件数を年次推移でみると減少傾向であるのに対し、帝王切開娩出術件数の分娩に占める割合 は増加傾向です。
ある病院での分娩調査によると、年齢別帝王切開の割合は21~25歳で13.9%、26~30歳で14.4%、31~35歳で20.3%、36~40歳で23.7%、41歳以上で35.7%と、年齢が上がるにつれて帝王切開の割合が高くなることがわかりました。
また、別のある病院の院内調査によると、帝王切開のうち約半数が緊急帝王切開とのデータもあります。
日本の帝王切開の死亡率や原因は?
日本は、先進国の中で妊産婦死亡率が最も低い国の1つです。
2020年の日本の妊産婦の死亡率は、年間出生10万人あたり約2.8人程度と、世界でも最も低い水準です。(※1)
日本の分娩管理の技術は世界トップレベルであり、安心して出産ができる国といえるでしょう。
そんな恵まれた環境であっても、ときに妊産婦の死亡は起きてしまいます。
帝王切開は出産方法のひとつといえども、やはり手術。
母体死亡のリスクは自然分娩に比べて高いのでしょうか。
妊産婦死亡原因となる初発症状が出るのは、
・帝王切開中で6%
・自然分娩中で16%
と報告がされています。(※2)
自然分娩に比べると、帝王切開中の死亡率は低いといえるでしょう。
ただし妊産婦の死亡原因でもっとも多い「羊水塞栓症」は、経腟分娩と比較して、帝王切開はリスクが高いといわれており、頭位(※逆子でない場合)での帝王切開は、自然経腟分娩と比較し12.5倍も羊水塞栓症になりやすいとの報告もあります。(※3)
(※1)日本産婦人科医会「【第1回】1.我が国の周産期医療の現状」
(※2)日本産婦人科医会「妊産婦死亡報告事業 2019」
(※3)日本産婦人科・新生児血液学会「羊水塞栓症」
帝王切開のリスクとは
帝王切開は、母体側や胎児側の何らかのトラブルによって経腟分娩が難しい場合に選択される分娩方法です。
そのため、出産リスクは母子ともに減らせる場合が多くなります。
ただし、手術をすることによる合併症のリスクが高まることには注意が必要です。
主な手術後の合併症として、子宮の傷が自然治癒する過程でほかの臓器に癒着や、血管内に血の塊ができてしまう「血栓症」があげられます。
また帝王切開後は、子宮壁の一部が薄くなり、2人目以降の妊娠・出産時の子宮破裂といったリスクは高くなる傾向です。
緊急帝王切開の手術の流れ6ステップ
緊急帝王切開の流れは以下のような6ステップになります。
なお、母体や胎児の状態や緊急性によって異なる場合があります。
1. 胎児の心音聴取
2. 胎児の状態を正確に把握するため、心音を確認します。点滴をとる
水分補給、血液凝縮防止のために点滴を行います。点滴で血管を確保することは、
万が一輸血や薬剤の投与が必要になったときにも役立ちます。
3. 局所麻酔または全身麻酔
予定帝王切開の場合は胸から下に効き目があらわれる局所麻酔が一般的ですが、
緊急帝王切開で一刻を争う場合は全身麻酔になります。
4. お腹を切開して赤ちゃんを取り出す
子宮壁を切開し、赤ちゃんを取り出します。お腹の切開から赤ちゃんを取り出す
までの時間は数分から10分程度です。
5. 胎盤を取り出す
赤ちゃんを取り出した後、胎盤を取り出します。
6. 切開部の縫合
切開した部分を縫合します。吸収糸や医療用ステープラー(ホッチキス)を用いて
縫合します。
緊急帝王切開にかかる費用の目安
分娩費(保険適用) |
6.7万円(自己負担3割) |
検査・処置・投薬費(保険適用) |
3~5万円 |
入院費 |
20~30万円 |
新生児管理保育料 |
5~10万円 |
新生児の検査費 |
1~5万円 |
産科医療補償制度 |
1.2万円 |
緊急帝王切開による出産の場合、手術の扱いとなります。
分娩費は保険が適用され、自己負担は3割となります。
また、「高額療養費制度」により、1ヶ月の医療費が所定の金額を超えた場合、医療費の一部が払い戻されます。
医療保険に入っていた場合、帝王切開で出産をすると給付金の支払い対象となります。
地域や医療機関により異なり、差はありますが、合計40~50万円程度になります。
【体験談】緊急帝王切開で出産!手術の流れや痛み・術後の経過はどうだった?
私の出産は37歳のとき。
周りの友人がひとしきり出産していたため、リアルな体験談を聞くこともしばしば。
とにかくその痛みが恐ろしく、無痛分娩を希望していました。
退院後すぐに赤ちゃんのお世話ができるように、ベッドやおむつ替えの場所をセット。
予定日に向けて準備は万端でした。
直前の診察でも赤ちゃんは正常、元気いっぱいです。
そしていよいよ入院。
いざ陣痛促進剤を投与すると間もなく
「ピンコンピンコン」
医療ドラマでよく聞くアラームが鳴り響きます。
「どういうこと?」と困惑している私に、助産師さんたちは「大丈夫ですよ」と言いながら酸素マスクをつけます。
「どうしたんですか?」と聞くと
「ちょっと赤ちゃんが苦しいみたいなの」「ゆっくり呼吸してくださいね」
でも自分はまったく苦しくありません。
実感はないながらも、周囲のただならぬ様子に緊張感が高まっていきました。
ありがたいことに難を逃れ、赤ちゃんは正常に戻りました。
しかしその直後、先生から言われたのは「切りましょう」の一言でした。
何らかの原因で、赤ちゃんが出てこようとすると呼吸ができなくなってしまう状態にあり、通常の分娩ではリスクが高いと判断されたのです。
ほんの数分前まで無痛分娩だと思っていたのに。
鉗子や吸引のリスクは勉強しましたが、帝王切開なんてまったくの想定外でした。
ついに緊急帝王切開。手術の流れや痛みとは
帝王切開と聞くと「麻酔をしているから出産の感覚がない」と思う人も多いのではないでしょうか。
しかし帝王切開でも、出産の間隔はあるのです。
痛みが苦手な人は、怖いのではないでしょうか。
しかし帝王切開の感覚は、痛みとは違うものです。
帝王切開は赤ちゃんへのリスクがないように半身麻酔の状態で行われます。
そのため妊婦さんの意識はしっかりあります。
そして痛みはないのですが、引っ張られる感覚はあるのです。
何も予備知識がなかった私は
「意識があるのにお腹を切られるなんて」と、恐怖でガタガタ震えていました。(助産師さんがずっと手をにぎっていてくれました。)
実際のところ、痛みを感じることはありませんでしたが、お腹の中を強めに引っ張られている感覚がありました。
半身麻酔は怖かったですが、ちゃんと自分の中から産まれた感覚が分かってよかったです。
そして、お腹を開けっ放しで赤ちゃんと対面。
閉腹のため、あっという間に眠りの中へ。
緊急帝王切開後の痛みや経過はどうだった?
帝王切開といえば「産後の痛みが大変」と聞いたことがあるのではないでしょうか。
産後は血栓ができないように、足に装着された機械で一晩中加圧が繰り返されていました。
そのため、眠りたいのに眠れない。
くわえて私の場合は、痛み止めの副作用で猛烈に全身が痒くなってしまい、一晩身体を掻きむしっていました。
いま思えば、痒みが一番きつかったです。(相談したうえで、薬は中断し痒みも止まりました)
そして翌日には、歩くことが求められます。
早く動いたほうが、早く治るらしいのですが、それはもうお腹を切っていますから、動かすのが怖いのです。
「そろそろ立ち上がってトイレに行ってみましょう」と言われても・・・
やっぱり動くと痛いし、何より怖いし、そしてやっぱり痛いし・・・
結果、私の場合は翌日動けませんでした。
自力でトイレに行けるようになったのは翌々日のことです。
初めは、点滴用スタンドに全体重をかけているような状態で移動していましたが、それも数日。
支えなく歩けるようになります。
そして痛み止めを飲んでいますから、ずっと痛みがあるわけではありません。
産後初めて許可されたシャワーは、傷口がしみるのではないかとおびえ、自分のお腹の傷を直視することも怖かったのですが、意外と大丈夫でした。
緊急帝王切開後の退院生活はどうだった?
そしていよいよ、退院の日。
身体の動きによっては、ズキッと痛むことはありますが、かなり痛みは軽減されていました。
しかし体を真っ直ぐ伸ばすのは痛いので、腰をやや丸めて歩いているような感じだったと思います。
帰宅後は、自分のお腹が痛むリスクを考えながらの育児が始まりました。
なるべく腹筋を使わないように、そーっと動く生活。
準備していた赤ちゃんのお世話スペースの配置は台無し。
腰をかがめるのがきつくて、赤ちゃんの沐浴は1人じゃ無理。
産後の骨盤用ベルトは傷が痛くて出番なし。
などなど、想定外のことがいろいろとありました。
とくに、下着。
傷に当たるので、しばらくは股上深めな優しい素材のものでないと履けません。
緊急帝王切開の傷はいつごろ治った?
帝王切開の痛みが、完全になくなったのは約1ヶ月後でした。
もう身体をと伸ばすこともできます。
しかし再び「痒み」が襲ってきました。
傷の治り際に、痒みを経験した人もいるかと思います。
この痒みは治まっては痒くなり、治まっては痒くなりの繰り返し。
痒みがなくなるのに数年かかりました。(※個人差があると思います)
ずっと痒いわけではないのですが、ふとした瞬間に痒くなるということが繰り返されます。
もう一生このままなんだと腹をくくって、そのこと自体を忘れた頃、痒みはなくなっていました。
そして傷口も数年かけて小さく薄く目立たなくなっていきました。
どうやら傷跡は「数年かけてゆっくり」治るようです。
まとめ
緊急帝王切開は、分娩時の母体や赤ちゃんのトラブルにより、誰にでも起こりうることです。
出産年齢の上昇とともに、帝王切開の割合も高くなる傾向にあります。
いざという時に備えて、緊急帝王切開の流れや費用を知っておくと良いかもしれません。
帝王切開は手術の扱いになるため、分娩費用は保険適用になります。
回復に時間を要するため、入院期間は普通分娩に比べて長くなります。
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※ほかの保管者からの声はこちら
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▼さい帯血保管について、もっと詳しく
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー