無痛分娩とは?痛みがないお産って本当?

坂田陽子

記事監修者:坂田陽子

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

無痛分娩ってどんなもの?

無痛分娩とは、麻酔を用いることで痛みを少なくした分娩です。

日本ではまだまだあまり普及していない無痛分娩ですが、海外では盛んに行われています。日本産婦人科医会の2017年に実施したアンケートによると、日本では全分娩中、無痛分娩は6%であるのに対し、アメリカでは2008年のデータで約60%、フランスでは2010年のデータで約80%の女性が無痛分娩を選択したという報告がされています。

産科医療施設にとって無痛分娩を導入するのは負担がありますので、受け入れ施設は限られています。

分娩管理は母児の健康や命をお預かりする仕事です。分娩中に状態が急変し、場合によっては命に関わることすらあります。それだけでも負担がある中で、麻酔管理も行わなければならないのは、多くの施設にとって大変なことです。 結果として日本では無痛分娩対応の施設が少なく、無痛分娩が普及しない原因のひとつになっています。

方法はどんなものがあるの?

陣痛を和らげるには2つの代表的な方法があります。硬膜外麻酔と点滴からの鎮痛薬投与です。

硬膜外鎮痛について

硬膜外麻酔は「硬膜外腔」、脊髄くも膜下麻酔は「脊髄くも膜下腔」と「硬膜外腔」という2つの場所に麻酔薬を投与する方法です。

どちらの方法でも背中から細くて柔らかいチューブ(直径1mmぐらい)を入れ、そこからお産が終わるまで痛み止めの薬剤を注入します。そうすると、おなかから足、おしりにかけての感覚が鈍くなり、お産の痛みが和らぎます。

この麻酔の方法は、赤ちゃんへの影響がとても少ないことも知られています。細いチューブは腰骨の高さぐらいの背骨のところに入れます。皮膚に局所麻酔をしてから行うので、強い痛みがあることは多くありません。10分ぐらいの処置です。

無痛分娩のときだけではなく、一般的な手術や、術後の鎮痛目的で日常的に使われている方法です。

硬膜外鎮痛では、脊髄と呼ばれる痛みを伝える神経の近くに薬を投与するため、とても強い鎮痛効果があります。また薬のお母さんへの影響は少なく、さらに薬が胎盤を通って赤ちゃんへ届くことがほとんどないことから、多くの国で無痛分娩の第一選択の方法とされています。

すべての人が硬膜外鎮痛を受けられるとは限りません。 お母さんの血が止まりにくいとき、背骨に変形があるとき、神経の病気があるとき、硬膜外腔に薬を注入するための管を入れる場所に膿(うみ)が溜まっているときなどは、 硬膜外鎮痛を受けられない場合があります。

点滴による鎮痛について

点滴からの鎮痛では静脈の中に医療用麻薬を投与し、痛みを和らげます。

点滴により静脈の中に薬が入ると、その薬はお母さんの脳に届きます。薬の量はお母さんよりは少ないものの、胎盤を通過して赤ちゃんの脳にも届きます。 お母さんや赤ちゃんが眠くなったりすることがあるのはこのためです。また医療用麻薬には、点滴による鎮痛の場合のように、直接脳に届くと呼吸を弱くする作用があります。しかし、眠くなったり呼吸が弱くなったりするのは一時的なことです。お母さんの静脈への薬の投与を中止すれば、お母さんへの影響は長くは続きません。また生まれたばかりの赤ちゃんが少し眠そうであっても、薬の影響がなくなれば元気になります。

無痛分娩を始めたあとは、どちらの方法でも、ベッド上で過ごすことが一般的です。お産が終わったら、薬剤注入を止めます。そうすると徐々に麻酔の効果が切れてきて、数時間後にはもとの状態になることが普通です。無痛分娩が終わった後の過ごし方は、無痛分娩をしていないときと同じです。

無痛分娩にはメリットとデメリットがあります。

無痛分娩のメリットは、第一に出産の痛みが和らぐことです。無痛分娩とは、完全に痛みがなくなるわけではありませんが、痛みが和らぐことで、スムーズにお産が進み、体力の消耗が少なくて済みます。産後の回復が早かったという感想を挙げるママもいらっしゃいます。

出産の痛みに耐えているとき、赤ちゃんに届く酸素が少なくなるという報告があります。これは強い痛みがあるとホルモンによって、子宮の血流が減ることが原因だと言われています。また、陣痛のときに呼吸を忘れてしまうこと・過呼吸になってしまうことも影響していると考えられます。妊娠高血圧症候群で赤ちゃんへの血流が減少している場合は、酸素量が減少してしまう可能性があります。無痛分娩を受けたお母さんは、陣痛中の酸素消費量が少なく済むという報告があるため、心臓や肺が悪い方には、無痛分娩を勧めるケースもあるようです。

無痛分娩にはデメリットもあります。無痛分娩の費用は、健康保険を利用することができないため、基本的に自己負担となります。

費用は医療機関によって大きく異なるので、事前にきちんと調べておく必要があるでしょう。

無痛分娩を受け入れる産科医療施設の少ないのが現状です。出産を予定している地域に無痛分娩を選択できる施設があるか、事前によく調べておきましょう。
また、先述のとおり麻酔を使用して行います。そのため、麻酔による合併症のリスクを伴うことから、無痛分娩を選択しない方も多くいます。無痛分娩中によく起こる副作用に足がしびれる、尿が出せない、皮膚がかゆいなどがあります。ときどき起こる不具合として、分娩後の強い頭痛などがあります。とてもまれな不具合として、命に関わるような状態(重度の低血圧、呼吸停止、重篤な不整脈)、長期に及ぶ重い神経障害などがあります。背中の麻酔によって、お産の進みが悪くなったり、お母さんのいきむ力が弱くなることがあります。そのため、子宮収縮薬を使うことが増えたり、鉗子分娩・吸引分娩が増えることが知られています。また、無痛分娩を行うときには自然の陣痛を待たずに分娩を計画的に誘発する施設もあります。

また、麻酔が効いていても、痛みを全く感じなくなったという方も、痛みを感じたという方もいます。

無痛分娩を選択するにはどうしたらいい?

妊婦健診のときに、無痛分娩を希望していることを担当医または助産師、看護師に伝えてください。健診を受けている施設が無痛分娩を行っていない場合には、無痛分娩を行っている施設を紹介してくれるかも知れませんし、 厚生労働省が公開している無痛分娩取り扱い施設一覧や無痛分娩の関連学会・団体連絡協議会(JALA)のホームページにある全国無痛分娩施設検索サイトを参考にご自分で探すことも可能です。そのように分娩施設を変える可能性がある場合には、できれば妊娠32週より前に相談するのが良いでしょう。

かかりつけの施設が無痛分娩を積極的に行っている場合でも、その希望を早めに伝えてください。 施設により無痛分娩のやり方に大きな違いがありますので、その施設の方法について十分な説明を聞き、よく納得した上で無痛分娩を受けることをお勧めします。無痛分娩を行う医師が妊婦さんのこれまでの病気や体の状態を事前に知っておくと、無痛分娩をスムーズに、かつ安全に行いやすくなります。また、現在の日本の無痛分娩とは、計画分娩で行う施設が多く、事前に希望していることを伝えていないと無痛分娩を受けられないこともありますので注意してください。

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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