無痛分娩を知っていますか?
無痛分娩という言葉を聞いたことがありますか? おそらく多くの人が、出産という言葉から「陣痛」を真っ先に連想するのではないかと思います。
「出産=痛いもの」というイメージが私にはありました。無痛分娩ということは痛みがない出産なのでしょうか 。
出産方法はどんなものがある?
赤ちゃんの出産方法は、大きく分けて経腟分娩と帝王切開の2つです。
経腟分娩では、赤ちゃんがママの骨盤の中の産道を通り、腟から出てきます。 帝王切開による分娩では、赤ちゃんは骨盤内の産道を通ることなく、ママの下腹と子宮の下の方を切開して生まれてきます。
つまり、ママの下腹と子宮を切って胎児を取り出す手術のことです。一般的には妊娠・分娩経過から経腟分娩に適さず、母子にリスクが生じる時に選択されます。
経腟分娩の中には、自然分娩、計画分娩、無痛分娩が挙げられます。それぞれの出産方法の違いについても考えてみましょう。
自然分娩とは
おしるし、陣痛や破水等、自然に分娩のきっかけが来るのを待ち、そのまま自然の流れに任せて進行する出産方法です。
最終的には2、3分おきにやってくる陣痛に合わせ、自分の力でいきんで赤ちゃんを腟から産みます。
計画分娩(分娩誘発)とは
妊婦さんの中には分娩開始を自然に任せて待てない、または待っていない方が良い時があります。
例えば、母体側の理由としては妊娠合併症が発症し、このままだと重症となり、母児が危険と判断される場合や予定日超過等が挙げられます。
胎児側の理由としては胎児発育不全、巨大児等があります。
社会的な理由としては、パートナーの立ち会いを希望する、無痛分娩が安全に行える時間帯の分娩管理を希望する場合等です。
これらの理由がある時に分娩を計画して誘発して分娩を開始させるのが計画分娩(分娩誘発)です。 計画分娩では、頸管拡張法等により子宮頸管の熟化を促した上で、子宮収縮剤を使用して陣痛が来るようにします。
無痛分娩とは
陣痛時に鎮痛目的で麻酔(主に硬膜外麻酔)を使用する分娩のことをいいます。
硬膜外麻酔は、細いチューブを背骨の中の硬膜外腔に挿入し、麻酔薬を注入して下半身の鎮痛を得る方法です。局所麻酔なので、ママの意識はあり、いきんで赤ちゃんを産む感覚や、赤ちゃんが生まれる瞬間もわかります。
この麻酔方法は帝王切開の時に使われることもあります。
無痛分娩ってどんなもの?
今回はこの無痛分娩についてより深くご紹介していきましょう。
無痛分娩は、麻酔を用いることで痛みを少なくした出産方法です。
日本ではまだまだあまり普及していない無痛分娩ですが、海外では盛んに行われています。
日本産婦人科医会が2017年に実施したアンケートによると、日本では全分娩中、無痛分娩は6%であるのに対し、アメリカでは2008年のデータで約60%、フランスでは2010年のデータで約80%の女性が無痛分娩を選択したという報告がされています。
産科医療施設にとって無痛分娩を導入するのは負担がありますので、受け入れ施設は限られています。
分娩管理は母児の健康や命をお預かりする仕事です。
分娩中に状態が急変し、場合によっては命に関わることすらあります。それだけでも負担がある中で、麻酔管理も行わなければならないのは、多くの施設にとって大変なことです。
結果として日本では無痛分娩対応の施設が少なく、無痛分娩が普及しない原因のひとつになっています。
無痛分娩のメリット
第一に、出産の痛みが和らぐことです。
無痛分娩は、完全に痛みがなくなるわけではありませんが、痛みが和らぐことで、スムーズにお産が進み、体力の消耗が少なくて済みます。
産後の回復が早かったという感想を挙げるママもいらっしゃいます。
出産の痛みに耐えている時、赤ちゃんに届く酸素が少なくなるという報告があります。
これは、強い痛みがあると、ホルモンにより、子宮の血流が減少することが原因といわれています。また、陣痛の時に呼吸を忘れてしまうことや過換気になってしまうことも影響していると考えられます。
妊娠高血圧症候群で赤ちゃんへの血流が減少している場合は、酸素量が減少してしまう可能性があります。
無痛分娩を受けたママは、陣痛中の酸素消費量が少なく済むことや心臓の負担を軽減するという報告があるため、心臓や肺が悪いママには、無痛分娩を勧めるケースもあるようです。
無痛分娩のデメリット
無痛分娩の費用は、健康保険を利用することができないため、基本的に自己負担となります。 費用は医療機関によって大きく異なるので、予め事前にきちんと調べておく必要があるでしょう。
無痛分娩を受け入れる産科医療施設の少ないのが現状です。出産を予定している地域に無痛分娩を選択できる施設があるか事前によく調べておきましょう。
また、先述のとおり麻酔を使用して行います。そのため、麻酔による合併症のリスクを伴うことから、無痛分娩を選択しない方も多くいます。
無痛分娩中によく起こる副作用に、足がしびれる、尿が出せない、皮膚がかゆい等があります。ときどき起こる不具合として、分娩後の強い頭痛等があります。
とても稀な不具合として、命に関わるような状態(重度の低血圧、呼吸停止、重篤な不整脈)、長期に及ぶ重い神経障害等があります。背中の麻酔によって、お産の進みが悪くなったり、お母さんのいきむ力が弱くなることがあります。そのため、子宮収縮薬を使うことが増えたり、鉗子分娩・吸引分娩が増えることが知られています。
また、無痛分娩を行う時には自然の陣痛を待たずに分娩を計画的に誘発する施設もあります。
麻酔を開始するタイミングや麻酔の使用量は、本人のお産の進みがスムーズであるかどうかにより、かなりの差があります。また、本人の痛みの自覚にも違いがみられます。
「無痛希望なのに無痛じゃなかった」、「無痛でなくて和痛程度だった」、逆に「自然陣痛よりずっと楽だった」、「痛みが取れて上手にいきむことができた」等、無痛分娩を経験したママの感想は様々です。
「陣痛を経験してこそ我が子に愛情が生まれる」といった言葉を聞くこともありますが、出産のかたちは人それぞれであり、同じものはありません。
痛みを和らげる無痛分娩もれっきとした出産方法です。メリットデメリットをしっかり理解した上で、自分にはどの出産方法が合うのかを選択することが大切です。
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー