出産には、経腟分娩と帝王切開の二つの方法があります。
どちらも赤ちゃんやママにとって最も安全で最適な方法には変わりなく、どの出産でも赤ちゃんの体の機能や成長に大きな違いはありません。
しかし、帝王切開予定のママを不安にさせたり、帝王切開後のママにジワジワと不調を感じさせるものがあります。
それは、「おなかの傷あと」
今回は、赤ちゃんを命がけで生んだ勲章ではあるけれど、ちょっと厄介な「おなかの傷あと」について、少し掘り下げてみたいと思います。
おなかの傷にも種類がある!
帝王切開の傷は「縦切開」「横切開」の2パターンがあります。
・縦切開
一般的に、「縦切開」は手術の際に視野を確保しやすく赤ちゃんを取り出しやすいことから、子宮筋腫や超早産児などのハイリスクな場合に行われることが多いです。
・横切開
「横切開」は、それ以外の場合に「下着などのゴムより下の位置を切開して、産後に傷が目立たないように」といった美容的な理由から行われることが多いです。皮膚は横に切りますが、中の子宮を切る方法は基本的に同じで、帝王切開自体の安全性に大きな違いはありません。
傷の大きさは、縦切開だと4~10cm、横切開だと10cm前後。
おなかの筋肉は繊維が縦に走っているため、縦切開は出血が少なく傷が治りやすいというメリットがあります。そして横切開は、傷跡が目立ちにくい位置にあるというメリットがあります。
傷のセルフケアは産後3カ月が重要
赤ちゃんを命がけで生んだ勲章とはいえ、自分の体についた傷は、できるだけきれいに治したいものですよね。
きれいでトラブルの少ない傷あとを目指すために大切なのは「セルフケア」です。
セルフケアといっても、面倒なマッサージや特別な物は必要ありません。自宅に戻ってからも産後約3カ月は、傷あとを乾燥させないように専用のテープやシリコンジェルシートなどを傷あとに貼り、保護しておくだけです。インターネットでも簡単に入手できます。
傷テープの使い方ワンポイントアドバイス
傷を埋めてくれる新しい細胞が増えて、その勢いが落ち着くまでの期間は、約3カ月と言われています。この時期の自然治癒を妨げないよう、テープ等で保護することが大切です。
・テープの貼り方
傷あとの大きさに合わせてサイズを選びます。傷あとをテープ中央にあわせて、テープを伸ばさずに貼りましょう。座った状態では、ずれてしまうこともありますので、立った状態で貼りましょう。
メーカーによって違いはありますが、5~7日程度で交換が必要になります。
色に近い色の傷あとになるまでは使用しましょう。個人差はありますが、傷あとが安定するまでに半年以上はかかります。傷のスペースを埋めている増殖期の3カ月まではテープを使用したケアが必要でしょう。
ケア中に避けた方が良いこと
手術後1週間ほどは痛みを感じやすいですが、この時期に消毒などを行ってしまうと、新しい細胞が傷を埋めてくれる働きを妨げてしまいます。消毒は行わず、過度な乾燥を避けましょう。
また、下着などで擦れるとそれがかゆみに繋がり、掻いてしまうことで傷あとが盛り上がったり、赤みが出てきます。傷あとの位置にゴムが来るような下着を避けたり、ゴワゴワしたボトムスで傷あとに刺激が加わることを避けるなど、できるだけかゆみを引き起こさないよう心掛けましょう。
「傷あとが盛り上がってきた・・・かゆい・・・」そんな時は?
ケアに気をつけて過ごしていても、傷あとトラブルは100%防げるものではありません。見た目の悪さやかゆみについて悩んでいる帝王切開ママは、実はたくさんいます。
傷あとが盛り上がってくるなどの症状は、ひとくくりに「ケロイド」と呼ばれがちです。しかし、実際はさまざまな治療法から効果を得られる「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」という状態である場合が多いです。まずは産後健診の際に相談したり、かかりつけの産婦人科、形成外科、皮膚科に気軽に相談してみましょう。
肥厚性瘢痕は、赤く盛り上がって引きつれや痛み、かゆみを伴うものです。この場合、軟膏や絆創膏タイプの薬、場合によっては内服薬を処方されることもあります。
多くの肥厚性瘢痕は薬によって見た目やかゆみ等の症状が改善します。しかし、その治療を継続してもなかなか効果がない場合、そして他の正常な皮膚まで盛り上がってきた場合に「ケロイド」と診断されることがあります。
専門家でも肥厚性瘢痕とケロイドをはっきりと区別することは難しく、患者さんにわかりやすく伝えるためにどちらも「ケロイド」と表現されることがあります。そのため、治療が長引き、治りにくいといったイメージから不安に思うママもいるようです。でも、まずは早めの受診が一番。肥厚性瘢痕であれば一過性のものですから、前向きに治療に取り組んでみることをお勧めします。
3回の帝王切開。私の「傷歴史」
実は、私も帝王切開を3回経験していますので、山あり谷ありの傷あとの歴史をご紹介させていただきます。(あくまで体験談ですので、正しい対処法ではないことも記載しています。)
・1回目出産時
緊急帝王切開でしたが、横切開で吸収糸(溶けるため抜糸が要らない糸)での縫合でした。手術後の傷あとはとてもかゆかったのですが「こういうものなんだろうな」と思い込み受診もせず、よく傷あとを掻いていました。その結果・・・傷あとは真っ赤に盛り上がって、1年経っても目立っていました。
・2回目出産時
2回目の帝王切開のため、予定帝王切開。同じく横切開で吸収糸での縫合でした。1回目と同じ産院だったため、傷あとやかゆみについて事前に相談をしました。先生からは「かゆい場合の薬があるから早く受診してくれたら良かったのに・・・掻いたことでここまでの状態になってしまったんでしょうね。今回の出産時にこの赤い部分は切り取って、退院時に傷口用の薬を出すから、しばらく塗って過ごしてね。」と言われました。
実際に、手術時に赤い部分は切り取られ、新しくきれいな傷ができました。処方された通りに薬を塗っているとかゆみは起きず、盛り上がったり、赤くなることもありませんでした。この時が、最も傷あとがきれいな時期となりました。
・3回目の出産時
予定帝王切開でしたが、妊娠経過が良くなかったため、施設の整った病院へ転院して出産。横切開でしたが、非吸収糸での縫合でした。切開の傷あとはきれいに落ち着きましたが、縫合して抜糸した箇所が、腫れたり膿んだりしました。一般的に、非吸収糸は傷あとが残りにくいと言われていますが、私の場合は2カ所だけ化膿などのトラブルがありました。
医師の指示通り、初めは薬でかゆみを抑え、その後はテープで保護しました。4年経った今は切開の傷あとが薄く、1本と膿んだ2カ所のあとが残っていますが、さほど目立ちません。掻かずに保護したことが功を奏したように思います。
まとめ
おなかの傷は赤ちゃんを命がけで生んだ勲章なのに、厄介な傷あとトラブルによって煩わしく感じてしまうのは少しもったいない気もします。
帝王切開後、約3カ月のケアを行うことが必要になりますが、その中で、かゆい、つっぱる、傷あとが赤い、ヒリヒリする、このような症状が出始めたら、早めに受診し、医師に相談をしましょう。
傷あとをきれいに治すためには、早めのケアが鍵になります。
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー