帝王切開での出産を予定しているが、後遺症はあるのだろうかと心配していませんか。
帝王切開後に後遺症が発生する可能性は誰にでもあるのです。
ただし適切な処置を行えば、後遺症を解消できるケースもあります。
この記事では、帝王切開の後遺症が発生する「原因」「対処法」を解説していきます。
この記事を読むと後遺症の種類や原因、対処法がわかり、手術前の不安をやわらげられますよ。
【種類別】帝王切開における7つの後遺症
帝王切開とは、おなかと子宮の切開によって、胎児を取り出す手術です。
経腟分娩が難しい場合や経腟分娩中の緊急時に、母体と胎児の命を守るために行われます。
厚生労働省の発表によると、帝王切開の割合は病院で「27.4%」診療所で「14.7%」と、特別低いものではなく、誰でも経験する可能性がある出産方法です(※1)。
一方で帝王切開=手術と聞くと合併症や後遺症などの心配をする人もいるかと思います。
ここでは、帝王切開によって起こる可能性がある4つの後遺症について、解説していきます。
出典
※1 令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況|厚生労働省(令和4年4月27日公表)
後遺症1:傷跡
帝王切開はおなかを切開する手術となるため、必ずおなかに傷ができます。
帝王切開の皮膚の切り方には「横切開」「縦切開」の2種類があります。
予定帝王切開では、目立ちにくい「横切開」が選択されることが多いです。
一方で、緊急帝王切開や大量出血が想定されるときには、手術時間が短く胎児を早く取り出せる「縦切開」が選択されるケースが多いでしょう。
帝王切開の傷口は一般的に術後数日から1週間程度で閉じます(※2)。
この時期は炎症期と呼ばれ、赤い腫れや痛みを感じる人が多い時期です。
傷口が閉じると約1~2週間、新しい細胞が増え、少しずつ傷を埋めていきます(※3)。
この時期は増殖期と呼ばれ、閉じた傷口の下で炎症が続き、赤みや痒みを感じやすくなるのです。
その後は細胞の活動が落ち着く成熟期と呼ばれる時期になり、傷の回復が進んでいきます。
目安としては約3カ月から1年かけて傷の炎症が治り、肌色に近い傷跡になるといわれています。
帝王切開では傷をどんなにきれいに縫合しても、肥厚性瘢痕(皮膚を修復する細胞が過剰に産生され傷が赤く盛り上がった状態)やケロイド(傷に留まらず正常な皮膚まで盛り上がりが広がる状態)のように、赤く盛り上がった傷跡が後遺症になってしまうケースがあります。
出典
(※2、3) 皮膚マクロファージのバランスと創傷治癒〜創傷治癒促進を目指して〜|和歌山県立医科大学医学部法医学講座(2022年掲載)
※注意:傷跡などの写真が掲載されている資料へのリンクが開きます
傷跡の対処法
後遺症を残さないためにはテープなどによる傷口のケアが大切であり、最低でも3カ月、傷が治るまで続ける必要があります(※4)。
ほかにもレーザー治療、ステロイド注射、形成外科での傷跡修正などで傷跡を目立たなくする方法もあります。
出典
※注意:傷跡などの写真が掲載されている資料へのリンクが開きます
後遺症2:痛み、痒み
帝王切開に限らず、皮膚を切開する手術の後遺症として古傷の痛みや痒みがあります。
古傷の痛みは、皮膚の下の筋肉組織が完全に修復されていないため起こるのです。
また血流が悪くなったり、筋肉の伸縮がうまくいかなくなったりすると痛みを感じやすくなります。
痛みは交感神経と関わるので、頭痛や吐き気など神経系の症状として表れる場合も。
交感神経の働きが活発化すると血管の収縮が起こり、古傷やまわりの痛覚神経が高ぶって、痛みが生じるのです。
痛み・痒みの対処法
古傷の痛みは気圧の変化やストレスが引き金で発生します。
運動や呼吸で自律神経のバランスを整え、身体の血流をよくして筋肉の緊張をやわらげましょう。
また、ストレスをため過ぎないことも大切です。
古傷の痒みは血行の促進や乾燥によって引き起こされますが、傷をかいてはいけません。
皮膚を傷つけ感染症にかかるリスクなどがあるからです。
患部を冷やしたり、肌を保湿したりすると痒みが抑えられます。
我慢できないほど痒いときには、皮膚科に相談し、塗り薬や飲み薬を処方してもらいましょう。
後遺症3:頭痛
帝王切開の脊髄麻酔で硬膜穿刺を行った後、頭痛が起こることがあり、これを硬膜穿刺後頭痛といいます。
大部分は穿刺後48時間以内に発生し、95%は1週間以内に消失しますが、稀に慢性頭痛症候群へ移行することがある合併症です。
穿刺針が太いと起こりやすいとされています。
後遺症4:しびれ
帝王切開の麻酔の合併症で手足のしびれや痛みなど術後神経麻痺が起こることがあります。
針やカテーテルに伴う物理的な損傷が主な原因で、しびれなどの神経症状が数週間から数カ月続く場合があります。
ごく稀に神経症状が残ることがあります。
後遺症5:不正出血
帝王切開で切開した子宮の筋肉が何らかの原因でうまく癒着せず、陥没して傷跡となって残り月経異常などを引き起こすことがあります。
これを帝王切開瘢痕症候群といいます。
月経終了後に茶色おりものが出ることが多く、傷跡の大きさに比例して症状が強く出る傾向があります。
子宮内の傷跡に月経血や粘液などがたまり、着床障害を引き起こして不妊の原因になる可能性もあります。
不正出血の対処法
すぐに妊娠を希望しない場合、不正出血など月経異常の症状に対しては低用量ピルなどのホルモン療法が行われることがあります。
妊娠を希望している場合には子宮鏡や腹腔鏡を用いた手術も検討されます。
後遺症6:癒着
帝王切開など手術によって開腹した傷跡を縫合し、組織と臓器を自然治癒させていく過程で本来離れているべき組織同士がくっついてしまうことを「癒着」といいます。
癒着は帝王切開手術に限らず、開腹手術では90%の確率で生じるとされています(※5)。
癒着が起こったとしても症状が無い場合もありますが、様々な後遺症を引き起こす場合も。
癒着が引き起こす後遺症には慢性的な「下腹部痛」「膀胱の機能障害」「イレウスなど腸の機能障害」などがあげられます。
また組織の癒着があると、その後の帝王切開や開腹手術のときに癒着を剥ぐ作業が必要となり、再癒着や大量出血のリスクも高くなるのです。
さらに癒着は、次回以降の妊娠にも影響を及ぼすことがあり、卵巣や卵管が癒着してしまった場合には、不妊症になるケースもあります。
癒着しているかどうかは、開腹してみないと分かりません。
癒着の後遺症はかならずしも起こるわけではありませんが、リスクがあることは知っておきましょう。
出典
後遺症7:心の傷
帝王切開で出産した人のなかには、理想の出産ができなかったとがっかりしたり、周りの人から心無い言葉をかけられて傷ついたりと、心に傷を負ってしまう人もいます。
とくに緊急帝王切開の場合、心の準備をする余裕もなく、帝王切開が行われるため、後悔してしまう人もいるようです。
心の傷による後遺症は、今後の子育てにもマイナスな影響を与えてしまいます。
心の傷の対処法
辛い気持ちは1人で抱え込まず、誰かに相談しましょう。
自治体の保健師さんや同じように帝王切開で出産した家族や友人に話を聞いてもらうとよいかもしれません。
帝王切開で出産した方にいたわりの言葉をかけ、タイミングが合えば経験者同士でお産を振り返ってもらうなど、帝王切開を受けた人に対して特別なサポートを行っている医療機関もあります。
帝王切開後の悩み相談も含め、様々な産後ケア事業を行っている産院や公的サービスもあります。
まとめ
帝王切開の後遺症はかならずしも起こるわけではありません。
あまり心配しすぎることなく、出産前の予備知識として頭の片隅においておきましょう。
後遺症について知っておくと、傷跡のケアができる形成外科や心のケアができる施設を事前に探しておくことができます。
いざ後遺症が出てしまった時に慌てないで対応出来るかもしれません。
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▼さい帯血保管について、もっと詳しく
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー