妊婦健診で必ず受ける血圧測定
妊婦健診では毎回血圧測定が行われます。私自身、妊娠前はほとんど血圧を測定したことがありませんでしたが、妊娠中に血圧が高めだと指摘され、健診のたびに血圧の値を気にしていたのを覚えています。
妊婦さんが自分の血圧の値を把握しておくことは、ご自身の体のためにも、おなかの赤ちゃんのためにも、とても大切なことです。血圧とは、心臓から流れる血液が血管の壁を押す力のことをいいます。心臓が収縮して血液を押し出す時の最も高い血圧を収縮期血圧、心臓が拡張して血液の流れが緩やかな時の最も低い血圧を拡張期血圧といいます。妊娠すると、この血圧の値が変動しやすくなります。
妊娠初期は血圧が下がる
妊娠初期は、ホルモンの作用によって血管が広がり、血圧が低下しやすくなります。妊娠中の低血圧は日常生活に支障をきたす状況でなければ、特に問題にすることはありません。しかし、低血圧に伴う自覚症状(めまい、疲れやすい、朝起きるのがつらい、頭痛、肩こり、手足の冷え、吐き気など)は、妊娠に伴う心身の変化によって起こる不快な症状とも重なります。特に妊娠中は貧血になりやすいため、低血圧と貧血、両方の似た症状に悩む方もいます。低血圧による症状がつらい場合には無理をせず早めに医師や助産師に相談しましょう。
妊娠中期から後期にかけては変動が起こりやすい
つわりが落ち着く妊娠中期から後期にかけては、赤ちゃんの成長とともに子宮が大きくなる時期です。子宮が大きくなることで骨盤の中の血管が圧迫され、血流が悪くなり血圧が低下することがあります。また、心臓に負荷がかかり、動悸・息切れが起こりやすくなる妊婦さんもいます。妊娠後期8カ月を過ぎ、臨月近くになると、血圧は妊娠していないときの値にまで徐々に上昇していきます。
妊娠中の血圧の正常値は?
日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン」では、血圧の正常範囲を3種類に区分しています。妊婦さんにもこの正常値が適用されます。
①至適血圧
収縮期血圧が120mmHg未満かつ拡張期血圧が80mmHg未満
妊娠中に最も望ましい血圧値です。母体や赤ちゃんに負担をかけず、脳梗塞、心臓病、肝臓病などの病気を引き起こすリスクが低い状態です。
②正常血圧
収縮期血圧が120~129mmHg未満かつ(または)拡張期血圧が80~84mmHg未満
妊娠中の正常な血圧値です。この範囲であれば問題ありません。
③正常高値血圧
収縮期血圧が130~139mmHg未満かつ(または)拡張期血圧が85~89mmHg未満
正常範囲ではあるものの血圧が高めなため、妊娠高血圧症候群の予備軍とされています。もう少し血圧を下げられるように努力する必要がある値です。食事など日々の生活に気をつけましょう。拡張期血圧が85mmHg以上の場合は特に注意が必要で、自宅で血圧測定をするよう指導されることがあります。
高血圧には注意が必要
妊娠中に高血圧が続く場合には注意が必要です。通常の妊娠で血圧が急に上がるということはありません。妊娠高血圧症候群の可能性があるため、治療が必要になることもあります。妊娠高血圧症候群は、妊娠中に何らかの原因で高血圧になる疾患で、母体の血管障害や臓器障害を起こし、悪化すると母子の命に関わる危険があります。妊娠20週以降、分娩後12週までに収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の場合、妊娠高血圧症候群と診断されます。収縮期血圧が160mmHg以上または拡張期血圧が110mmHg以上のどちらかに該当すると重度の妊娠高血圧症候群とされます。妊娠高血圧症候群を発症すると最悪の場合、妊娠を維持できなくなる恐れがあります。妊婦健診で血圧が少し高めと診断された場合は医師や助産師の指導を受けながら、家庭でも注意深く血圧の値をコントロールしていく必要があります。
妊娠高血圧症候群を予防するには
妊娠高血圧症候群を確実に防ぐ効果的な予防法はまだ見つかっていません。しかし、一般的な高血圧を予防するための生活習慣は妊婦さんの高血圧予防のためにも有効です。以下のポイントを参考にしてみてください。
①食事
栄養バランスの良い食事を心がけましょう。極端な塩分の制限は必要ありませんが、塩分の摂取量は1日に7~8gに抑えられると良いでしょう。食べすぎに注意し、体重コントロールをしっかりしていくことが大切です。
②運動
安静を指示されていない妊婦さんは、無理のない範囲でウォーキングやマタニティヨガなどを1日30分程度行うと良いでしょう。
③休養・リラックス
心身の安静と休養をとることも高血圧予防には大切なことです。過労や余計なストレスを避け、十分な睡眠時間をとるようにしましょう。
④妊婦健診を毎回受ける
妊娠高血圧症候群の一番の予防法は妊婦健診を毎回受けることです。妊婦健診では血圧測定と尿検査を毎回行うため、数値に変化があれば医師や助産師からの適切な指導や治療を受けることができます。妊娠高血圧症候群は、軽度であれば早期に発見して日常生活に気をつけることで悪化が防げ、安全に出産することができます。早期発見のためにも、定期的に健診を受けることが大切です。
まとめ
妊娠中に血圧の値を把握することは健康な妊娠生活を送るために、また安全な出産を迎えるためにとても重要です。妊婦健診を毎回受け、血圧が高めと診断された場合には、高血圧の予防に繋がるような生活習慣を心がけるようにしましょう。
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー