「妊娠してから動悸を感じるようになった」「動悸がつらい」と悩んでいませんか。
妊娠すると、ホルモンバランスや必要な血液の変化などで動悸が起きやすくなります。
しかし、妊娠中の動悸を緩和する方法があります。
この記事では主に、以下のような内容を解説します。
・妊娠さんに動悸が起こる6つの原因
・注意点
・対処方法
この記事を読むと、妊娠中の動悸への対処方法がわかり、楽に妊娠生活を送れるようになりますよ。
妊婦さんに動悸が起こる6つの原因
妊婦さんに動悸が起こる原因は、おもに6つあります。
・ホルモンバランスの変化
・貧血または血流量の増加
・赤ちゃんの成長に伴う圧迫
・ストレスによる自律神経の乱れ
・子宮の張り止め薬の副作用
・食事量が多い
それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。
原因1:ホルモンバランスの変化
妊娠初期は、女性ホルモンがたくさん生み出されています。
そのホルモンの中の一つが「プロゲステロン」。
母体の体温を高めに保って、子宮内膜を柔らかくするという役割を持ち、妊娠中の体に無くてはならないホルモンです。
しかしプロゲステロンは、自律神経の働きに影響を与え、自律神経の乱れから動悸を引き起こすという困った働きもあります。
自律神経の乱れは動悸のほかにも、頭痛や便秘など不快な症状も引き起こすのです。
原因2:血液量の増加
妊娠中は、胎児や出産時の出血に備えて、必要な血液量が多くなります。
妊娠していない人に比べ「約1.5倍」の血液が必要です(※1)。
しかし赤血球の量は変わらないまま、血液量が大幅に増えるため血液が薄くなり「鉄欠乏性貧血」を引き起こしてしまうのです。
結果、動悸だけではなく、息切れやめまい、だるさも感じやすくなります。
また、大量の血液を体に送り出すポンプの役割をする心臓に負担がかかり、妊娠中の動悸にも繋がります。
妊娠中の血流量は、臨月に近づくにつれて増えていきます。
そのため妊娠中期〜後期の動悸の原因は、貧血・血流量の増加が原因の1つと考えられます。
(※1)出典:東邦大学医療センター大森病院 循環器内科「成人先天性心疾患診療」
原因3:胎児の成長に伴う臓器の圧迫
胎児が大きくなってくる妊娠後期に起きやすいのが、臓器の圧迫による動悸です。
胎児の成長と共に、子宮も大きくなります。
実際に、岐阜県御嵩町の公式ホームページが公表している資料によると、妊娠初期に「さくらんぼ」くらいの大きさだった胎児は、妊娠後期には「パイナップル」「スイカ」ほどの大きさになるといわれているのです(※2)。
このように、大きくなった子宮は横隔膜を押し上げるため、
・肺が圧迫され、息苦しさを感じる
・心臓が圧迫され、動悸が起こる
といった症状が起こりやすくなります。
(※2)出典:岐阜県御嵩町 公式ホームページ「妊娠~出産までの流れ」
原因4:ストレスによる自律神経の乱れ
妊娠中は、つわり・眠気・便秘・息苦しさ・腰痛など、さまざまなトラブルに悩まされます。
常に不安と隣り合わせで、気づかないうちに神経を張り詰めている妊婦さんも多いでしょう。
人によって不安や悩みはさまざまですが、
・妊娠したことへの不安
・経済的な不安
・出産への不安
など、環境の変化による精神不安からのストレスも多いものです。
そうした妊娠中のストレスが自律神経に影響し、動悸を引き起こしていることも考えられます。
原因5:子宮の張り止め薬の副作用
切迫早産などの傾向がある場合は、産婦人科から、子宮の張り止め薬(ウテメリン)が処方されます。
ウテメリンには副作用として、動悸の症状が見られる場合があります(※3)。
副作用の動悸が強くて辛い場合は、医師に相談してくださいね。
(※3)出典:キッセイ薬品工業株式会社「ウテメリン錠 5mg を処方された方へ」
原因6:食事量が多い
食後は消化に伴うエネルギー消費や血糖値の上昇により、動悸が起こりやすいといわれています。
食事量が多い場合には胃の圧迫により、さらに動悸が起こりやすくなります。
動悸が食後に起こることが多い場合、1回の食事量が多いことが原因かもしれません。
食事回数を増やし、1回に食べる量を減らすと改善が期待できます。
妊婦さんが注意すべき動悸の症状とは?
妊婦さんの動悸は、ほとんどが
「ホルモンバランスの変化」
「血液量の変化」
「自律神経の乱れ」
が原因です。
しかしなかには、妊婦さんが注意すべき動悸症状があります。
動悸と合せて以下のような症状がみられる場合は「妊娠高血圧症候群」の可能性があります。
・頭痛
・めまい
・ふらつき
・目のチカつき
・吐き気
妊娠高血圧症候群は血圧の上昇にくわえて、重症化すると、
・「けいれん発作」
・「脳出血」
・「肝臓や腎臓の機能障害」
などを引き起こす病気で、約「2〜8%」の割合で発症するといわれています(※4)。
胎児にも影響があり「発育が悪くなる」「胎児が生まれる前に胎盤がはがれる」ほか、最悪の場合には胎児が亡くなってしまうケースもあります。
妊娠高血圧症候群は母子の生命にも危険が及ぶ病気です。
上記のような症状がみられる場合は、すぐに病院を受診しましょう。
(※4)出典:東北メディカル・メガバンク機「大規模コホートデータから妊娠高血圧症候群を高精度に病型分類(フェノタイピング)するアルゴリズムの開発に関する論文が掲載」
妊娠中の動悸をおさめる6つの対処方法
妊娠中のつらい動悸、なんとかしたいですよね。
動悸を緩和する以下の6つの対処法を紹介します。
・シムス体位をとる
・貧血を予防・改善する
・リラックスできる時間をつくる
・漢方薬を服用する
・食事の量や回数を調整する
・カフェインの摂取をひかえる
順番に内容を紹介していきます。
対処方法1:シムス体位をとる
動悸がするときは、ゆっくりと横になってみましょう。
体をリラックスさせることで、動悸が和らぐ場合もあります。
横になる際は「シムスの体位」と呼ばれる寝方がおすすめです。
シムス体位は、お腹が大きくなった妊婦さんがゆったりと楽に寝られるため、動悸の緩和につながる可能性があります。
シムス体位をとる手順は、まず左右どちらか楽な向きでうつ伏せになります。
次に、下側になっている足を少し伸ばします。
そして、上側の足を曲げます。
下側の手を背中のほうへ回します。
手は曲げて頭の下に入れても良いです。
対処方法2:貧血を予防・改善する
貧血の予防・改善は、動悸の症状緩和につながります。
貧血の予防・改善には、以下のような方法が効果的です。
・レバー、ほうれん草など鉄分を多く含む食事を心がける
・産婦人科で鉄剤の処方を受ける
貧血の改善は、動悸の他にもさまざまな症状の改善につながります。
対処法3:リラックスできる時間をつくる
自律神経の乱れによる動悸の対策として、リラックスできる時間をつくることも大切です。
具体的な方法としては、以下のようなものがあります。
方法 | 詳細 |
腹式呼吸 | 方法は以下のとおり。
1.楽な姿勢で座る |
呼吸筋ストレッチ体操 | ▶肩のストレッチ
1.息を吸いながら肩を上げる ▶胸のストレッチ 1.手を後ろで軽く組み、ゆっくり息を吸う ▶背中のストレッチ 1.膝を曲げ、手は胸の前で軽く組む (※)呼吸筋ストレッチ体操の動画はこちらから |
出典:東京大学大学院法学政治学研究科・法学部「コラム51:自律神経のしくみとストレスマネジメント」、独立行政法人環境再生保全機構「上手に付き合う 呼吸を整え心もカラダもリラックス!呼吸筋ストレッチ体操で息苦しさを改善しよう」
ほかにも「音楽鑑賞」「笑う」ことでも効果が期待できるため、私生活に取り入れていきましょう。
対処方法4:漢方薬を服用する
動悸の症状をやわらげる漢方薬の服用も効果的です。
ここでは当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)と呼ばれる漢方薬を紹介します。当帰芍薬散には、以下のような効能があります。
・妊娠時の血流を改善
・ウテメリンの副作用である頻脈・動悸・ふるえの緩和
・妊娠高血圧症候群の予防
漢方薬も、市販のものを自己判断で服用するのではなく、医師に処方してもらいましょう。
対処方法5:食事の量や回数を調整する
1回の食事の量を減らし、小分けにして食べると、急激な血糖値の上昇や胃の圧迫を防ぐことができ、食後の動悸が起こりにくくなります。
よく噛んでゆっくり食べるようにすると少量の食事でも満足感を得ることができます。
対処法6:カフェインの摂取をひかえる
妊娠初期は、妊娠前の生活習慣が抜けず、カフェインや刺激物を取ってしまう場合もあるでしょう。
実際、農林水産省公表している情報によると、カフェインの摂取は中枢神経系を刺激して心拍数を増加させるといわれています(※5)。
また大阪府堺市の公式ホームページが公表している情報では、妊娠中のカフェインの摂取量目安を「200〜300mg以下」におさえることを推奨しているのです(マグカップで2杯程度)(※6)。
ただし個人によって、カフェインへの耐性など体質が異なるため、一概にはいえません。
カフェインを含む食品としては、以下のようなものがあげられます。
・お茶各種(紅茶、せん茶、ウーロン茶など)
・エナジードリンク
・一部の炭酸飲料
飲食する際は、カフェインが含まれていないか確認する習慣をつけるようにしましょう。
出典:
(※5)農林水産省「カフェインの過剰摂取について」
(※6)堺市ホームページ「食の情報 妊娠期・授乳期の食生活」
妊娠中の動悸に関するQ&A
ここでは妊娠中の動悸について、よくある3つの質問をまとめました。
順番に見ていきましょう。
土肥先生
これは、妊娠に伴い血液量が増加し、心拍出量が約30-50%増加するためです。
この変化は特に妊娠中期から後期にかけて顕著であり、心臓にかかる負担が増加することで動悸を感じる頻度が高くなる傾向があります。
初期のホルモン変化(プロゲステロンの増加)が一因となる場合もあります。
土肥先生
これは妊娠に伴う循環器系やホルモンの変化が原因です。
ただし、症状の頻度や程度には個人差があります。
土肥先生
動悸は、心臓が強くまたは速く脈打つ感覚で、心拍出量の増加やホルモンの影響が主な原因です。
一方、不整脈は心拍リズムの乱れであり、急な心拍の変化を伴うことがあります。
ほとんどの場合、これらの症状は妊娠に伴う一時的な変化であり、出産後に自然に治まります。
ただし、一部の不整脈は治療が必要になる場合があるため、持続的または重篤な症状がある場合には医師に相談することが重要です。
参考論文
1. Thorne, S., et al. (2016): Cardiovascular physiological adaptations during pregnancy and their clinical implications.
2. Soma-Pillay, P., et al. (2016): Physiological changes in pregnancy: Understanding normal adaptations and their relevance to clinical practice.
3. Kamel, H., et al. (2013): Palpitations during pregnancy and associated risks.
まとめ
妊婦さんの動悸は、「ホルモンバランス「血流量」「胎児の成長」などによるトラブルが大半です。
不快な動悸が日々起こるのはつらいですが、
・寝方の工夫
・貧血の改善
・リラックスできる環境を整える
・漢方薬の服用
・食事量や回数の調整
・カフェインの摂取をひかえる
などの対処方法で、動悸を少しでもやわらげましょう。
また動悸症状の中には、妊娠高血圧症候群など注意が必要な病気のサインが隠れている場合も。
動悸が長引く、つらいときは主治医に相談をして、不安を解消しましょう。
胎児に会えるその日まで、辛い症状を少しでも軽くしながら、なるべく前向きに楽しい日々を過ごしてくださいね。
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この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー