無痛分娩の事故の割合と件数は?起こりうる8つのリスクを解説
記事監修者:助産師 坂田陽子 先生
助産師/看護師/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

無痛分娩は、痛みが軽減されることによって緊張や不安が軽くなり、リラックスした心と体で出産に望めるといわれています。
しかし、手術などで使われている麻酔薬を用いることに不安があり、ためらう人もいるでしょう。
そこで、
・無痛分娩の死亡事故件数と原因
・無痛分娩で実際に起きた死亡事故例
・無痛分娩に用いられる「硬膜外麻酔」について
・無痛分娩の8つのリスク
・無痛分娩を検討するときに注意したいこと
を解説します。
「無痛分娩が気になっているけれど、麻酔や死亡リスクが気になる」という人はぜひ参考にしてください。
無痛分娩による事故の割合と件数

無痛分娩を選択する妊婦は年々増加していますが、事故のニュースを目にして不安に感じる人も多いでしょう。
日本産婦人科医会が2010年から2016年までに報告された妊産婦死亡271例を分析したところ、無痛分娩を実施していたケースは14例で、全体の「5.2%」でした(※1)。
この数字だけを見ると不安に感じるかもしれませんが、実際には14例のうち13例は羊水塞栓症(羊水が母体の血管に入って起こる重い合併症)や子宮破裂など、無痛分娩を行わなくても起こりうる産科的な問題が原因です(※2)。
また麻酔そのものが直接的な原因となった事例は14例中わずか1例で、これは局所麻酔薬中毒(麻酔薬が血液中に入り過ぎて起こる症状)によるものでした。
つまり、無痛分娩で使用する麻酔が直接の原因となる重大な事故は、まれといえるでしょう。
また無痛分娩を受ける人の数は年々増えており、2018年には全分娩の5.2%だったのが、2024年には13.8%と6年間で2.7倍に増加しています(※3)。
無痛分娩を検討する際は、事故率や件数の数字だけでなく、
・医療機関の体制
・医師の経験
・緊急時の対応能力
なども含めて判断することが大切です。
(※1)出典:公益社団法人 日本産婦人科医会(石渡勇)「無痛分娩における課題」2025年5月14日
(※2)出典:厚生労働省「平成30年度第6回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会議事録」2018年8月28日
(※3)出典:公益社団法人日本産婦人科医会 医療安全部会「硬膜外無痛分娩の現状」2025年3月
無痛分娩で用いられる「硬膜外麻酔」とは
陣痛の緩和方法はさまざまありますが、鎮痛効果が確実なのは区域麻酔という方法であり、背中側から背骨に針を刺して麻酔薬を注入する「硬膜外鎮痛」が主流です。
硬膜外麻酔は、脊髄くも膜下腔の外側に位置する硬膜外腔に局所麻酔液を投与して鎮痛する方法で、全身麻酔とは違い母体の意識や胎児の呼吸が抑制されることなく、安全で効果的な方法といえます。
脊髄神経には、体を動かす運動神経と痛みや温度を感じる知覚神経があります。
硬膜外腔は脊柱管の後ろ側にある半月状のスペースで、そこに麻酔薬を注入すると知覚神経に麻酔薬が到達して効果を表すのです。
しかし、運動神経は解剖学的関係上、麻酔薬に対する感受性が低いために、その影響は知覚神経よりも少なくなります。
麻酔薬の投与量を適切に管理することで、痛みは感じにくくなり、それ以外は自然分娩と同じで力を入れられる「張ってくるのはわかるけど、痛みはない」という状態にできるのです。
もちろん麻酔薬の効き方には個人差があるのため、すべての人が同じ状態になれるというわけではありませんが、その状況に近づけるように主治医と相談して麻酔薬の量や濃度を調整していくことになります。
無痛分娩の8つのリスク

無痛分娩には、次のようなリスクがあります。
リスク1:分娩時間が長くなる
麻酔を使うことによって陣痛が弱くなることがあり、分娩時間が長くなったり、吸引や鉗子分娩が必要となる可能性が高くなるといわれています。
また自然分娩では、陣痛によって自然に腹圧がかかり、赤ちゃんを生み出す最大限の力を発揮することがありますが、痛みのない状態では普段以上の力を出すことがむずかしいことが多いです。
その場合は促進剤を使用して分娩を進行させる必要があります。
麻酔により「張ってくるのはわかるけど、痛みはない」という状態であれば、張りのタイミングで上手にいきむこともできます。
しかし、なかには麻酔が効き過ぎて、いきむタイミングがわからなくなる場合も。
その場合は、薬の量を調節したり、医師や助産師の声かけのタイミングに合わせて、いきみを入れることになります。
リスク2:異常な症状の発見に気づきにくい
痛みは人の体に備わるアラームサインといえます。
その防御機構を取り除いた場合、危機的状況にある痛みを感知できないため、異常の発見が遅れてしまう可能性も。
たとえば常位胎盤早期剥離という状態が起こると、激しい腹痛を感じます。
しかし無痛分娩の場合は、その前兆に気づかずに発見が遅れることにより、母子ともに危険な状況に陥ってしまうことが考えられます。
そのため、医師や助産師が常に母子の状態を観察して、異常があればすぐに対処できるように準備をしながら分娩を進めていくのです。
リスク3:低血圧
麻酔の影響で低血圧を起こす可能性は低くありません。
しかし、医師や助産師が観察を行い、低血圧の際には適切に対処していきます。
リスク4:頭痛
まれに、麻酔の影響で分娩後に頭痛を起こす可能性があります。
この頭痛は座ったり立つことにより強まるため、分娩数日後に見られることが多いです。
ほとんどの場合、1週間程度で自然に良くなりますが、育児や授乳の妨げになることがあります(※4)。
(※4)出典:独立行政法人国立病院機構 京都医療センター「麻酔科」
リスク5:かゆみ
かゆみを感じることがあります。
多くの場合、我慢できないようなかゆみはありません。
冷却などの対症療法を行うこともあります。
リスク6:発熱
38度以上の発熱を起こすことがあります(※5)。
一時的なことがほとんどです。
(※5)出典:防衛省|自衛隊中央病院 産婦人科「無痛分娩に関する説明文書 」2024.11.27 改訂
リスク7:腰痛、下肢の神経障害、排尿障害
まれではありますが、分娩後に下肢の神経障害が生じる場合があります。
また、一時的に排尿障害が起こることもあります。
リスク8:極めてまれな重篤な合併症
起こりえる合併症として、
・局所麻酔薬中毒
・全脊髄くも膜麻酔
・硬膜外血腫
・膿瘍
・薬剤アレルギー神経障害
・アナフィラキシー
などがあります。
しかし、これらの重篤な合併症は非常にまれで、医療機関では安全のための対策を行っています。
後遺症を残すようなものはさらに可能性が低いといえるでしょう。
また初期の段階で適切な対応を行うことで、重篤になることを防止できます。
無痛分娩を検討するときに注意したいこと

無痛分娩の場合は、とくに病院選びが大切です。
・産婦人科医と麻酔科医がいる
・産科麻酔の資格をもつ医師がいる
・無痛分娩の実績が多い
・24時間無痛分娩が可能
・最新設備の整った病院
などの情報を調べたうえで産院を決めましょう。
無痛分娩の事故に関するQ&A
ここでは無痛分娩の事故について、よくある3つの質問をまとめました。
順番に見ていきましょう。
日本産科麻酔学会の報告によると、重い合併症が起こる確率は数万人に1人程度とされています。
ほとんどの妊婦さんは安全に出産されています。
ただし、どんな医療行為にもリスクはゼロではありません。
麻酔の量やタイミングの調整が大切になるため、経験のある医師や麻酔科医のもとで行うことが重要です。
リスクを正しく理解したうえで、信頼できる医療機関で受ければ、安全に行える方法です。
出産の痛みを軽減することでリラックスでき、スムーズにお産が進む方も多くいます。
大切なのは「医療体制が整っている病院を選ぶこと」と「十分に説明を受けて納得してから選ぶこと」です。
病院のホームページや日本産科麻酔学会のサイトで「無痛分娩を実施している施設一覧」を確認することもできます。
また、実際に無痛分娩を経験した人の声や口コミを参考にするのも一つの方法です。
説明会や妊婦健診のときに医師に質問して、不安をきちんと解消しておくことが安心につながります。
まとめ
どのような出産であれ、必ずリスクが伴うものですが、とくに無痛分娩では麻酔という薬を使うことから、一般的な自然分娩とは別のリスクが生じます。
どんな分娩法を選ぶにしても、出産は女性にとって大きなイベントです。
医師や助産師に希望を伝え、安全性やリスクなどについても十分に理解し、納得のいく方法を選択して分娩に臨みましょう。
▼無痛分娩で後悔しないためには何が大切?知っておくべきポイント
赤ちゃんの未来に備える「さい帯・さい帯血保管」を考えてみませんか?
赤ちゃんとお母さんをつなぐ、「へその緒(さい帯)」と、その中を流れる血液「さい帯血」には、体を作るためのもととなる貴重な「幹細胞」が多く含まれていて、赤ちゃんやご家族の将来に備えて長期的に凍結保管することができます。
幹細胞は新しい医療への活用が進められており、もしもの時に役立てられる可能性があります。
- 出産後わずか数分の間にしか採取できない貴重な赤ちゃんのものです。
- 採取の際、お母さんと赤ちゃんに痛みや危険はありません。
- どちらにも幹細胞がたくさん含まれています。
- 再生医療分野など、さまざまな活用が進んでいます。
- それぞれ異なる幹細胞が含まれているため、両方を保管しておくことで将来の利用の選択肢が広がります。
実際に保管・利用した方のお声
出産時にしか採取できない「さい帯血」を、脳性まひのお子さまに対して臨床研究で使用された方のお声をご紹介します。
高知大学の臨床研究で
さい帯血投与を受けたお子さま
さい帯血を保管して
本当に良かったと思っています
元気に産まれたと思っていましたが、生後半年頃から左手をほとんど使おうとしないことに気付き、1歳頃にやはり何かおかしいと思ってMRIを撮ってもらうことにしました。結果1歳5ヶ月で脳性まひとわかりました。
2歳の誕生日にステムセルからハガキが届き、出産時に保管したさい帯血がもしや役に立つのではと思い至りステムセルに問い合わせました。ちょうど臨床試験への参加者を募集していて、運よく2歳5ヶ月のときに参加することができました。
輸血前は左手と左足に麻痺があり、歩けてはいるものの、とても転びやすく、少し歩いては転びを繰り返していました。しかし輸血後、翌日には転ぶ回数が減り、おもちゃを両手で掴めるようになって驚きました。その後もリハビリも継続し、完治したわけではありませんがかなり麻痺が軽くなったように思います。
現在、地域の小学校の普通級に集団登校で通えています。
まさか我が子がさい帯血を使って治療をすることになるとは思っていませんでしたが、保険のつもりでさい帯血を保管しておいて本当に良かったと思います。
さい帯・さい帯血を利用した再生医療の研究が、今まさに国内外で進んでいます。
その他のお声は公式サイトからご覧いただけます。
医師からのメッセージ
総合母子保健センター
愛育病院 病院長
百枝幹雄 先生
応用範囲が広がる
「さい帯・さい帯血」による再生医療
近年、めざましく進歩している再生医療のなかで、さい帯やさい帯血の幹細胞を利用する技術の最大の特徴は、通常は破棄してしまうけれども実はとてもポテンシャルの高い出生時の幹細胞を活用するという点です。
これまで有効性が示されている白血病、脳性まひ、自閉症のほかにも様々な疾患に対して臨床研究が進んでいますし、民間のバンクではご家族への利用も可能になりつつありますので、今後はますます応用範囲が広がることが期待されます。
一方、忘れてはならないのは必要になるまで幹細胞を長期間安全に保管するには信頼できる設備と技術が必要だということで、それにはそれなりのコストがかかります。
コスト・ベネフィットのとらえ方は人それぞれですが、お子様とご家族の将来を見据えてベネフィットが大きいとお考えの方には、信頼できる施設へのさい帯やさい帯血の保管は十分価値のある選択肢だと思います。
さい帯・さい帯血についてより詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
保管するなら、ステムセル研究所の「HOPECELL(ホープセル)」
株式会社ステムセル研究所が提供する「さい帯・さい帯血ファミリーバンクHOPECELL(ホープセル)」は、日本国内で最も選ばれている保管サービスです。
ステムセル研究所は、25年以上の保管・運営実績がある日本初のさい帯血バンクで、国内最多となる累計80,000名以上のさい帯血を保管しています。

研究所
研究所
国内では脳性まひに対する、赤ちゃんご自身やごきょうだいのさい帯血投与の研究が行われています。海外の臨床研究では、投与により運動機能および脳神経回路の改善が報告されています。また自閉症スペクトラム障害(ASD)に対して、さい帯血の投与によりコミュニケーション能力や社会への順応性が向上する可能性が期待されており、大阪公立大学にてお子さまご自身のさい帯血を投与する臨床研究が開始されます。
研究所
無料パンフレットをお送りします!
さい帯・さい帯血保管についてより詳しく知っていただけるパンフレットをご自宅へお送りします。
赤ちゃんの将来に備える「さい帯・さい帯血保管」をぜひ妊娠中にご検討ください。
この記事の監修者
助産師 坂田陽子 先生
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー
