<授乳は親子のスキンシップの時間>
乳児に母乳やミルクを与えることを授乳といいます。母乳のみで乳児を育てることを母乳育児、母乳以外のミルクで乳児を育てることをミルク育児といいます。完母(完全母乳)、完ミ(完全ミルク)などという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。また、母乳とミルクの両方(混合栄養)で育児を行うことを混合育児といいます。
授乳は乳児にとって栄養摂取だけでなく、母親とのスキンシップを図る大切な時間です。今回は母乳育児、ミルク育児、混合育児それぞれの授乳のポイントをわかりやすく解説いたします。
<母乳育児>
メリット
母乳は消化、吸収、利用率が良く、乳児が離乳食を開始するまで順調に発育するのに必要な栄養素をすべて満たしています。また、免疫物質による感染防御作用により乳児の死亡率や罹患率が低くなります。
母乳育児は、授乳が簡単で授乳時の細菌感染のリスクが少ないこともメリットとして挙げられます。乳首を直接吸わせることで母子間に安定感や満足感などの優れた母子相互作用を引き起こします。
授乳方法
- 授乳の前におむつをチェックし、汚れていたら交換をする
- 手指を清潔にする。
- 乳児の口元をつついて刺激する
- 乳房を支え、乳児を引き寄せ、乳輪までくわえさせる
- 片方を飲ませたら反対側も飲ませる
- あごを下に押して乳児の口をはずす
- 乳児の背中がしっかり伸びるような姿勢にしてげっぷをさせる
授乳のポイント
乳児が欲しがるときに欲しがるだけ母乳を与える自律授乳を行うのが良いとされています。始めは1日10~12回の授乳になることもありますが、母乳が十分に出ていれば、授乳間隔は自然に規則的かつ間隔が伸びます。
ゆったりとした楽な姿勢で語りかけたり目を見つめたりしながら授乳をしましょう。乳輪までしっかりくわえさせるのがポイントです。乳児の唇がアヒルの口のように外にめくれ気味になっているのが正しい形です。
抱っこの方法は自分に合うものを試してみると良いでしょう。乳児を太ももにまたがらせる縦抱きは腕の負担が少ないスタイルです。ベーシックな横抱きでは高さを調節するために授乳クッションを使うと良いでしょう。フットボールを抱えるように飲ませるフットボール抱きは母乳をまんべんなく飲ませるのに最適です。夜間の授乳に楽な添い乳では窒息事故に注意してください。授乳後にげっぷをさせることで吐き戻しを防ぐことができ、乳児が気持ちよく寝つけます。
<ミルク育児>
メリット
ミルクの栄養成分は母親の体調に左右されず均一です。ミルクの成分は母乳に近づけて作られているので栄養面で劣るということはありません。ミルク育児では乳児が飲んだミルクの量がはっきりわかるというのもメリットの1つです。また、場所を気にせず授乳できる、母親以外の人でも授乳できるというメリットもあります。母親は家族が授乳してくれている間に休むことができ、乳児にとっても母親以外の人とのコミュニケーションの時間を作ることができます。
調乳方法
- 調乳前に手指を清潔にする
- 消毒済みの哺乳瓶に一度沸騰させたお湯を出来上がり量の半分~2/3入れる
- 粉ミルクを付属のスプーンで正しく計り哺乳瓶に入れる
- 哺乳瓶を振って溶かす
- 出来上がり量までお湯を足し、蓋をしてよく混ぜる
- 流水に哺乳瓶を当てて人肌まで冷ます(手首の内側にミルクを垂らし温度を測る)
授乳方法
- 乳首からミルクが落ちるかを確認する
- 抱っこして哺乳瓶を見せながら声をかけ授乳の合図をする
- 乳首を根元までくわえさせる
- 母乳を与える時と同様、乳児を膝の上に抱いて顔を見ながら授乳する
- 空気を飲ませないよう、哺乳瓶を傾けて乳首の中にミルクがある状態にする
- 授乳後は母乳の時と同様、げっぷをさせる
授乳のポイント
ミルク育児の場合にも母乳を与えるような気持ちで乳児をしっかり膝深く抱き、静かな環境の中で母子ともにリラックスして授乳することが大切です。寝かせたままの授乳は危険を伴い、乳児に十分な満足を与えることができません。
調乳後は時間を置かずに授乳します。30分前後で細菌が増え始めるので飲み残したミルクを後で飲ませるのは厳禁です。作り置きして冷凍・冷蔵保存することもできません。ミルクを飲ませる時には必ずその都度調乳し、飲み残しは廃棄します。哺乳瓶や乳首も早めに洗って毎回消毒しておきましょう。
粉ミルクを開缶後は乾燥した涼しい場所に保管し、なるべく1週間以内で使い切るようにします。冷蔵庫で保管すると庫内と室温の温度差により、缶の内部に水滴が付着し、ミルクが湿気を帯びてしまいカビの原因になるため冷蔵庫での保管はできません。
哺乳瓶や人工乳首は月齢や用途に応じて様々です。また、素材によって乳児の好みも出ますので、嫌がる場合には別のものを試すと良いでしょう。
<混合育児>
メリット
混合育児では母乳育児とミルク育児のそれぞれの良いところを取ることができます。乳児にとって最適の栄養源である母乳を無理せず与えることができ、必要に応じてミルクを足すことができます。
授乳方法
- 母乳を与えた後に不足分をミルクで補う方法
母乳の分泌不足のため乳児の1回の栄養所要量を満たせない場合には混合栄養を用います。最初に母乳を 10~15分間ぐらい飲ませてその後にミルクを足します。母乳の出は夕方になると少なくなることがあります。午前中は母乳だけにし、午後はミルクを足すという方法もあります。
- 母乳とミルクを別々に与える方法
母親の就労等で母乳を与えられない時間がある場合に母乳とミルクを別々に与える方法です。母乳の分泌量を減少させないために母乳栄養の回数を1日3回以下にしないことが望ましいとされています。
授乳のポイント
母乳が与えられる環境では、母乳を先に飲ませ、次にミルクという順番で飲ませます。ミルクは授乳前に作っておいて母乳を飲ませたらすぐにミルクに替えられるようにしましょう。
何らかの理由で母乳を与えることができない、あるいは母乳が足りない乳児にとってミルクはかけがえのない栄養です。母乳と変わらない考え方で授乳を行いましょう。
<まとめ>
乳児の授乳についておわかりいただけたでしょうか。ライフスタイルや個人の事情によって授乳の方法も様々です。どんな方法であれ、大切なのは愛情を持って育児を行うことです。無理なく自信をもって自分と赤ちゃんに合った授乳をしていきましょう。
参考文献
小児栄養学 武藤静子編著
母乳育児ミルク育児の不安がなくなる本 渡辺とよ子監修 主婦の友αブックス
母乳&ミルク育児安心BOOK 三石知左子監修 GAKKEN
あたらしい小児栄養学 林淳三編
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー