帝王切開には跡がつきもの
帝王切開は何らかの理由で経腟分娩ができないときにおなかと子宮を切開して赤ちゃんを取り出す分娩方法です。事前に日程を決めて行う予定帝王切開と経腟分娩の途中から急遽行う緊急帝王切開があります。
近年、帝王切開によるお産は増加傾向にあり、妊婦さんの4~5人に1人は帝王切開で出産しています。
帝王切開による出産ではどうしても傷の跡が残ってしまいます。しかし、きちんとケアをすることで傷の跡を目立たなくすることができます。
今回は帝王切開の傷の跡がどのようなものなのかをご説明いたします。傷跡をケアする方法についてもご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてみてください。
帝王切開の傷の処置
帝王切開の皮膚の切り方には、大きく分けて縦切開と横切開があります。それぞれ利点と欠点があり、何を重視するかによって、皮膚の傷が縦になるか横になるかが決まります。
縦切開は腹腔内が良く見え手術操作がしやすく、赤ちゃんを素早く取り出すことができるという利点があるため緊急時に選択されることが多くなります。また傷の延長が可能で術後の痛みは少ないといわれています。しかし傷の跡がへそから縦に残るため、位置的に目立ちやすいことが欠点です。ケロイド(傷の跡が赤く盛り上がった状態)にもなりやすく目立つことが多くなります。
一方、横切開では、恥毛のすぐ上をおなかのしわに合わせて横に切ります。傷の跡はおなかのしわや下着に隠れて目立ちにくく、ケロイドになることも少ないといわれています。予定帝王切開では横切開が選択されることが多いようです。赤ちゃんを取り出すのに若干時間がかかり、術後の痛みが強いといわれています。また、術後は傷口の感覚が鈍くなってしまうという欠点もあります。
帝王切開の傷跡の経過
切開後、赤ちゃんを取り出したら子宮とおなかの傷をそれぞれ縫合します。まずは溶ける糸(吸収糸)で子宮の切開部を縫合し、続いておなかの傷を縫い合わせます。皮膚の縫合には吸収糸やステープラー(医療用ホチキス)が使われます。
帝王切開手術による傷は、術後から3日程度で閉じていきますが、皮膚の下で炎症は続いており、赤い腫れや痛みが生じます。この時期は炎症期と呼ばれています。傷が閉じると新しい細胞が生まれ、傷を埋めていく増殖期が3週間〜1カ月程続き、赤みや痒みが生じることがあります。増殖期を過ぎると次第に肌に近い色になっていく成熟期を迎えます。
新しい細胞が生まれる増殖期に体質(女性ホルモンや高血圧の影響、遺伝的要因)や物理的刺激(皮膚が引っ張られる伸展刺激、衣類のこすれなどによる摩擦刺激)により、肥厚性瘢痕(元の傷に沿って盛り上がり赤みや痒みを生じる状態)やケロイド(元の傷の範囲を超えて赤みと盛り上がりが広がり痛みや痒みが生じる状態)になる要因が加わると炎症が継続してしまい、赤く盛り上がった目立つ傷跡になる可能性があります。肥厚性瘢痕は2年から5年で元の肌色に近い状態になることもありますが、ケロイドは自然に治ることが少ないといわれています。
帝王切開の傷跡のケア
帝王切開による傷跡をできるだけ目立たなくするには、傷跡のケアが重要です。肥厚性瘢痕やケロイドになる要因の中でも体質によるものは予防やケアが難しいですが、物理的刺激によるものはセルフケアで予防することができます。
物理的刺激の中でも近年特に注目されているのは傷跡に対する伸展刺激です。伸展刺激とは皮膚が引っ張られる刺激のことです。目立たない傷跡にするためには傷跡専用テープを使って伸展刺激を抑制することが重要です。テープを使うことで衣類や下着のこすれによる摩擦刺激の軽減にもなります。ただし、テープをはがす時の刺激も物理刺激となりますので、張り替える際は注意が必要です。肌に優しい粘着剤を使っているテープもあります。テープは傷口が完全に閉じ、抜糸またはステープラーや皮膚接合用テープをはずしてから使うことができます。
下腹部は日常の動作で力を入れることが多く、それによって皮膚や筋肉が引っ張られるため、傷跡が肥厚性瘢痕やケロイドになりやすい傾向があるといわれています。術後半年ごろまでは傷跡に負担がかかるような激しい運動は避けるようにしましょう。紫外線は傷跡が黒ずむ原因になるので紫外線対策も重要です。また、肌の痒みを引き起こす乾燥にも注意しましょう。
術後1年が過ぎても傷跡に赤みがある、傷跡が硬い、傷跡が盛り上がっているといった場合には、形成外科や皮膚科などの専門医に相談しましょう。肥厚性瘢痕やケロイドは形成外科や皮膚科で治療することができます。傷跡の状態によって内服薬、ステロイドの外用薬や注射、放射線、レーザー治療、手術など様々な方法を使い分けて治療します。
帝王切開の跡は勲章!
帝王切開の跡は時に勲章と呼ばれることがあるそうです。
私自身、3人の子供を帝王切開で出産していますが、子供たちに帝王切開の跡を見せて「あなたたちはここから生まれてきたんだよ」と話して聞かせることがあります。
年々目立たなくなってきているこの跡ですが、母親としての誇りだと思っています。
これから帝王切開で出産される方の中には帝王切開に対してネガティブなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、どんな方法であれ、出産はお母さんが命がけで赤ちゃんをこの世に導くことであり、大切なのは産み方よりも育て方です。
帝王切開を前向きに捉え、赤ちゃんと幸せな生活がスタートできますように!
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー