他人事ではない帝王切開
帝王切開とは、お母さんか赤ちゃんに何らかの問題が生じて経腟分娩が難しいと判断された場合に手術で赤ちゃんを出産する方法です。逆子、巨大児、多胎児(双子、三つ子)、赤ちゃんやお母さんに病気がある、前回の出産も帝王切開だった等の理由から事前に帝王切開の予定を立てて行われる予定帝王切開と自然分娩の予定だったものの、妊娠経過中や経腟分娩の進行中に母子の状態が悪くなり、いち早く赤ちゃんを出産する必要があると判断されたときに緊急で行われる緊急帝王切開があります。
厚生労働省の調査によると病院での出産の約25%が帝王切開によるものとされています。つまり、4~5人に1人は帝王切開で出産することになるのです。帝王切開は誰にでも起こりうることで、もはや他人事ではありません。いざという時に慌てないためにも妊娠中にぜひ帝王切開について知っておきましょう。
今回は帝王切開の術後の経過についてご紹介いたします。私は3人の子供を帝王切開で出産しました。自身の体験も交えながら、ご紹介させていただきます。
帝王切開の術後の経過
・手術当日(0日目)
手術終了後、数時間で麻酔の効果が消え、傷の痛みに加え子宮が収縮する後陣痛の痛みを感じます。痛みは我慢せずに伝えましょう。必要があれば痛み止めに注射や座薬を処方してもらえます。術後の経過が良ければ、飲水の許可が出ることもあります。
麻酔が切れて、お母さんの状態が落ち着いていれば赤ちゃんとの面会ができます。病院によっては手術当日から授乳をさせてくれることもあります。
帝王切開は経腟分娩以上に身体に負担がかかります。手術当日は安静にして身体をゆっくり休めましょう。術後合併症の一つである血栓を予防するために術前から弾性ストッキングを着用したり、術後にフットポンプを装着したりする場合があります。
・術後1日目~2日目
傷の痛みと後陣痛が続き、悪露(おろ)が出ます。
術後の経過に問題がない場合には、尿管カテーテルを抜去し、歩行が開始になります。抗生剤の点滴は長くても手術後2~3日で抜去します。
食事は病院によって異なると思いますが、流動食が開始になり、その後に五分がゆ、全がゆ、常食と進んでいきます。
回復が順調であれば、授乳が行えます。病院によっては早期に母子同室になることもありますが、術後の回復が思わしくない場合には赤ちゃんを預かってもらうこともできます。辛い時には無理せず相談しましょう。
・術後3日目~5日目
術後の痛み、後陣痛、悪露(おろ)は続きますが、経腟分娩の方と変わらない生活ができるようになります。授乳や赤ちゃんのお世話が本格的に始まります。
食事は普通食になり、入院中にお祝い膳が出ることもあります。
硬膜外麻酔の方は硬膜外カテーテルの抜去があります。傷口の抜糸(抜釘)が行われ、翌日にはシャワーを浴びることができます。縫合が吸収糸(溶ける糸)で行われた場合には抜糸の処置はありません。
まだ痛みがあるので無理のない姿勢でゆっくり動くようにしましょう。授乳により乳頭や乳房にトラブルが起こりやすい時期でもあるので、困った時には助産師さんに相談しましょう。乳頭保護には赤ちゃんの口に入っても安全な馬油成分の乳頭保護クリームがお勧めです。
・術後6日目~退院
悪露(おろ)は続きますが、術後の痛みと後陣痛は治まってきます。退院に向けて授乳練習や沐浴など赤ちゃんのお世話の練習を行います。
入院中に赤ちゃんは代謝異常症と内分泌疾患を調べる新生児マス・スクリーニング検査、耳の聞こえを調べる聴覚スクリーニング検査を行います。
前日の診察で異常がなければ、手術後8~10日で退院となります。退院は術後経過やそれぞれの病院で違いがあります。
・退院後
退院後も産後1カ月は無理をせず、ゆっくり過ごしましょう。赤ちゃんのお世話に専念し、家事などはできるだけ周りに手伝ってもらうと良いでしょう。産後1カ月は極力外出を控えた方が良いとされています。産後1カ月健診で順調に回復していることを確認してから外出範囲を広げていきましょう。帝王切開の傷跡はケロイド状になり、痛み、かゆみ、引きつれ等の症状が生じることがあります。傷跡専用のテープを使ってケアすると良いでしょう。
病院によって術後スケジュールは異なる
私は3人の子供をそれぞれ違う病院で出産をしましたが、病院によって帝王切開の術後スケジュールが異なりました。
10年前に第一子を出産した病院は術後わずか5時間で歩行訓練開始というスパルタ対応でした。そして術後1日目の最初の食事に鶏のから揚げが出てきたことに驚きでした。尿管カテーテルは術後1日目に、点滴は術後2日目に抜去となり、術後3日目にシャワーを浴びることができました。腰椎麻酔のみで、硬膜外麻酔による痛み止めがなかったので、術後の鎮痛には筋肉注射が使われました。
傷の痛みと後陣痛は術後4日目あたりから軽くなり、退院日の術後7日目にはほとんどなくなっていました。
7年前に第二子を出産した病院では手術当日は安静でした。手術の疲れから赤ちゃんを抱くことなく、ほとんど眠っていました。夜中に喉が渇いて目が覚めましたが、飲水の許可が出ておらず、うがいで喉の渇きをしのいだ記憶があります。術後1日目から飲水と術後食(全粥)が開始になり、尿管カテーテルも抜去されました。硬膜外麻酔による出産だったので、背中の管から麻酔薬による鎮痛を行うことができ、術後の傷の痛みも少なく、歩行は練習することなく赤ちゃんのおむつ替えのために立ち上がったら歩けてしまいました。しかし、術後2日目に点滴と麻酔の管を抜いた後、後陣痛による痛みに悩まされることになりました。座薬による鎮痛対応となりました。痛みのピークは術後3日目で、その後徐々に治まっていきました。術後3日目からシャワーも開始されました。第二子の時は術後8日目で退院となりました。
4年前に第三子を出産した病院でも手術当日は安静でした。傷の痛みから動くことができず、また家族の面会も制限されていて、誰にも頼ることができずにつらい術後でした。看護師さんが赤ちゃんをベッドサイドまで連れてきてくれて、励まされました。
第二子の時と同様、翌日まで飲水の許可が出ず、夜中喉の渇きに悩まされました。術後1日目から飲水と術後食(流動食)が開始になり、尿管カテーテルも抜去され、歩行訓練開始となりました。この時も硬膜外麻酔だったので麻酔による鎮痛を行うことができましたが、出産の回数毎に増すと言われている通り、後陣痛がひどく、動くのも一苦労でした。感染予防のため家族の面会が制限されていたため、病棟内で洗濯など身の回りのことをほとんど自分でやらなければなりませんでした。術後8日目に退院となりました。
出産予定の病院について調べておきましょう
妊娠中のトラブルは予測できないものも少なくありません。帝王切開はどの妊婦さんにも起こる可能性があります。帝王切開の流れや術後のスケジュールは病院によって異なるため、出産予定の病院の情報を事前に調べておくと良いでしょう。疑問や不安に思うことがあれば、早めに医師や助産師に相談しておきましょう。
この記事の監修者
坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー